201?0726
男子大学生が二人いた。
二人とも、中古で買ったようなパッとしない車に並んで座っている。
助手席に座った彼は、男性にしては小柄で幼い顔つきをしていた。
運転席に座った彼は、しばらく前に彼女を亡くしていた。もう会うことのできない彼女の姿を真似て、なんとか日常にしがみついていた。そのうち彼は、自己と彼女の輪郭が曖昧になっていった。
座席の間にあるシートポケットに、アイシャドウが転がっている。ケースを開いて、運転席の彼は指でパールホワイトのパウダーを掬う。その時、助手席に座る彼の脚が視界に入って、彼女のように細いと思った。自分より彼女らしいと思った。フロントガラスの向こうを見つめ続ける小柄な彼に「もうやめろよ」と言われて、それでもアイシャドウを掬う手は止まらない。彼女はこれを使っていた。
大学らしきところの、研究棟に囲まれた中庭に停まっていた車は、突然勢いよく発進してコンクリートの階段に乗り上げる。乗り上げて、揺れる。昼の日差しがきらめいていた。車は駐車場に停めなくてはならない。アクセルを踏む彼は、彼女は、停めるなら地下の薄暗いあの場所がいいと思った。その途端、景色から中庭が消える。
車はそのまま、どこか暗い場所へ落ちていく。
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