第13話 余剰次元と事象の地平線

杏子あんず……お前は「兎角」に目覚めてしまった。「学校の七不思議」で言うところの「霊の取り憑き」だな……お前は両親を亡くし、親戚の家にお世話になることになったが、精神的に不安定なのは仕方のないことだ……そう簡単に立ち直れるものでもない。授業に出ていても「兎角」の暴走で、みんなに迷惑をかける。とてつもないチカラだ……そう簡単に制御は出来ないだろう。家にいてもいろいろ考えてしまう……良くしてくれる親戚にも迷惑をかけたくないお前は、学校に来ているていでずっと屋上にいる。ここから見える校門で、会いたいけど会えない親友を待っている……俺もいろいろ考えた……「学校の七不思議」で詳細が分からないモノが二つあった……その内の一つ「デジャヴ」だ……そして伊倉梅いくらうめが不登校になって、1日だけ学校に来ている日があったのを思い出した。教室には来ていないが記録に残っている。杏子あんずの両親が亡くなって、忌引きびきの明けた初日……お前の事が心配で駆けつけた親友は、あの校門をくぐり屋上に佇む杏子あんずを見つけると急いで屋上へ上がって来た……そして……憔悴した二人の心は触れ合った!……とてつもないチカラを持った「兎角」同士のぶつかり合いだ!」

 

「……」

 

伊倉梅いくらうめはおそらく「余剰次元」……そして杏子あんず、お前は「無限重力」だな!」


「――!」


➖余剰次元➖ーーーーーーーーーーーーーーー

我々の存在する3次元に、時間という次元を加えたものが4次元、つまり時空と呼ばれている。だが余剰次元はいわば、5次元以上のことを指し、11次元とも言われている。

目に見えないほど小さな次元なのか、この世界に無数に広がる次元である可能性……宇宙を知るために不可欠と言われる「余剰次元」。これはまさに異次元と呼べるものだろう。

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「「余剰次元」の中に入った塵やゴミに「重力」がかかり、次元内で何倍にも膨れ上がった、超重力の衝突で「ブラックホール」が生成された……通常ならすぐに消滅してしまう「ミニブラックホール」も「余剰次元」の中ではその存在を保ち、吸い込まれた塵やゴミに発生した超重力が時間を曲げた……つまり一瞬だけ「タイムトラベル」した生徒達が存在する……普通なら「ブラックホールの事象の地平線」を超えなければタイムトラベルなんて不可能だが、そうすると人間の身体は耐えられないだろう……しかし「余剰次元」の中の「事象の地平線」なら可能なのか?……きっと可能だったのだろう……ほんの数秒か、数分なのか結果過去に戻った生徒が「デジャヴ」だと言っているのだから間違いない」


「……」


➖事象の地平線➖ーーーーーーーーーーーーー

ブラックホールの中心付近にあるとされる、禁制領域。ここを超えると世界のあらゆる「事象」と別れを告げて戻ることは出来ないと言われている。

つまりここを超えることが出来れば「時間」すらも超越しているということだ

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杏子あんず……うめと会いたくても会えないと思ってるんだな?……、二人が交わると次にどれほどの事が「起こる」のか想像が出来ないから……」


「……アルキ……凄いなぁ……全部分かっちゃうんだね……わたしね、何度も屋上で飛び降りようとしてたんだ……だけどねお父さんとお母さんが悲しんでるの……死んじゃった後のわたしを見て泣いてるの……うめも、ひじりも探求科のみんなも……泣いてるの……」

 

「そうか……お前は「未来」を視たんだな……あの時に、あったかもしれない未来を……」


「そうなのかもしれないし……そうじゃないのかもしれない……だけどずっと後悔はしてる」


「杏子の両親が亡くなったのは、「とある兎角」の暴走だ。お前のせいじゃない……あの場にいた100人以上の人間が犠牲になっているんだ、お前は悪くないよ」

 

「うん……頭では分かってるんだけどね……う……うう……どうしてもね……あの時こうしたら……ああしてればってね……うう……思うの……うう……ごめんね……お父さん……お母さん……うう……ごめんなさい」


 ずっと溜め込んでいたものが……ずっと胸の奥にしまっていたものが涙とともに吐き出される

 嗚咽が次第に大声になり泣き叫ぶ杏子の声は、かけられた爆音の音楽によって掻き消されアルキは無言で車を走らせる

 

「着いたな!」

「うう……帰りたくない」

「アホか!俺がマジで捕まるぞ」

「だって……泣かされたし……恥ずかしかったし……」

「泣かされたって人聞きの悪い!泣くことは全然恥ずかしい事じゃないぞ!」

「アルキ、先生みたいなこと言ってる……」

「いや、先生なんだけどね!いちおう……ほらさっさと降りろ!」

「えぇ?こんな傷心の少女に冷たくない?」

「あのなぁ……マジで今の状況もギリギリだぞ!誰かに見られたら終わる……一発で」

「だって……まだ解決してないじゃん!うめと会えない事……アルキなら分かるんでしょ!どうすればいいか」

「お前たちの「兎角」の制御には、時間がかかるだろうな、二人とも超強力だから!」

「「国」の保護を受けろってこと?」

「……本来ならそれが一番いいんだろうが……杏子あんずうめも探求科でいたいもんな!」

「――!それじゃあ!」

 杏子は笑顔で運転席のアルキに後ろから抱きつく


「おい!やめろ!」

「いいじゃん!椅子越しなんだから!密着してないよ!」

「まったく……解決策はあるにはある……しかも二人とも「探求科」として授業を受けることも出来る!」


「――え!能力は?」

「問題ない」

「何をすればいいの?」


「それはな……」


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