第12話 暗黒物質
「
「後ろに乗れよ!」
「えぇ!助手席は?」
「そこは「未来の伴侶」の指定席だ。それに教え子を隣に乗せてるなんて、誰かに見られたら誤解される」
「佐倉先生とか?」
「……まぁな……」
「ぶぅ!……でもアルキは可愛い車に乗ってるんだね」
「普段乗らないけどな」
アルキの愛車はローバーミニ。クラシックな雰囲気を漂わせるクリーム色だ
「杏子……「
「……アルキは何でもお見通しだね……あまり人に知られたくないみたいで、
「探求科の団結力を見たら分かるよ……家庭の問題なんだな」
「うん、助けてあげたいけど……怖いんだって……再婚して出来た、新しいお義父さんのことが……」
「……虐待か……俺は助けたいと思ってるが反対か?」
「アルキならそう言ってくれると思ってた……今日も
杏子は震える声でそう言うが、涙は流さない
「ここからは俺の独り言だ……
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今はみんながいるから守られている
いつかはこんな凄まじい能力は「国」の管理下に置かれるだろう
利用されるのだろうか?
実験されるのだろうか?
ただ今は……高校生活の間だけは、
「梅、お昼行こ!」
「うん……食欲無いけど……」
「ダメだよ!梅はガリガリなんだから!わたしが太って見えるからちゃんと食べて!」
「ぷっ……何それ」
「へへへ、
「……ありがとうね!杏子」
「また二人がイチャイチャしてる〜!ねっ
「舞、羨ましいならお前もイチャイチャ仲間に入ったらいいじゃん」
「えぇ?」
教室内に温かい笑いが起こる、何でもない会話でも全員が関わろうとする
誰かを守るということが探求科の日常を「特別」に変えて心は一つになっていく
その「想い」が外から見た者にとっては「
子供達は3人の教師を追い詰めた。仲間を守るためにやったことは決して褒められる事ではなかった
その中の一人、数学の顧問だった「田口修二」は生徒から難解な数学問題を質問され、答えられなかったところに
田口はこのクラス最初の「探求科顧問」であり、まだ若く好青年で情熱を持った教師だった
田口が異変に気付いたのは「
これは「学校の七不思議」なんかじゃなく「兎角」に目覚めた
皆は焦った……もしかすると
2人目、3人目も探求科を脅かす者は排除されてきた。そんな中、4人目の「
探求科の生徒達の根底に「正義」があるから周りが「悪」に見える
先生を追い詰める……そこに罪悪感などない
あるのは「仲間を守る」という意志だけだった
修徳高校探求科が、それほどまで外と隔絶しているとは思いもしない探求科の保護者達。
「杏子〜!今日も早く帰れたぞ」
「おかえり〜!お父さん、最近無理してない?」
「くぅ……杏子が優しい……うちの娘はどうしてこんなに優しいんだ!なぁ
「ふふふ、そうね」
「もぉ……親バカ」
「そうだ!杏子、旅行に行ける休み取れたぞ!」
「ホント!嬉しい」
「杏子、仲の良い友達がいるんだろう?」
「――?うん、
「その子も連れて来たらどうだ?」
「家族旅行に?」
「その子が良ければだが、まぁ親御さんにも許可を取らないといけないけど」
「……一緒に行けたら嬉しいけど……
「――どうして?」
忠宏は杏子に楽しんでもらいたかった……高校生になった杏子が、本当に楽しめるようにしてあげたかった……親だけじゃなく、友達も一緒に行けたら喜ぶのではないかと思い、そう提案したのだ
杏子も言うつもりは無かったのだ。
でも、もしかしたら忠宏なら
杏子は「虐待」の事を忠宏に相談した
支援センターや相談所は、匿名で通報することが出来る。忠宏は忙しい仕事の合間でいろいろと手を尽くしてくれた
もしかしたら忠宏のおかげでいい方向に向いたのではないか、と
「杏子、この前言っていた旅行の誘いなんだけど……」
「やっぱり……ダメだった?」
「……」
「行ってもいいって!お母さんが楽しんで来なさいって言ってくれたの!」
「――本当!?やったぁ!」
「……わたし……杏子と友達になれて良かった……」
「
旅行の許可も出て、家庭内でも少し落ち着いてきたのか、
制御している訳ではない。強力な「兎角」は、訓練をしなければ身を滅ぼすことにもなる。今はただ精神的に安定しているだけだった
「お待たせ〜
「杏子〜!……あ……お世話になります、
「こんにちは、
「こんにちは、梅ちゃん!いつも杏子から聞いてるわよ!母の聡子です」
「か……家族旅行に入れてもらえるなんて良かったんですか?」
「僕達だけじゃ
「何それ!わたしがワガママみたいじゃん!」
「あら?違うみたいよ、忠宏さん」
「えぇ?お母さんまで!」
「ぷっ……杏子のお父さんとお母さんって面白い」
「おっと!梅ちゃん早速笑ってくれたね!この旅行を「笑いの旅」と名付けよう!みんなで笑う、縛りだ!どんなに僕がつまらないこと言っても、絶対に笑うこと!」
「えぇ!じゃあお父さんが喋るとほとんど愛想笑いになるね」
「なに〜!……うう……杏子はそんな風に……」
「ぷ……ぷっ……ハハハ……もぉ〜始めからこんなに面白かったらわたし
「
「――覚悟?」
「だってこの旅行は「笑いの旅」なんだから!」
たったの2泊3日だったが、たくさんの思い出を作ることが出来た。楽しい時間が過ぎるのはあっという間だ
帰りには遊び疲れたのか、二人は姉妹のように寄り添い寝てしまう。忠宏と聡子はそんな二人を穏やかな気持ちで見つめる
「忠宏さん、良かったね!」
「ああ、楽しかったな……こんなに楽しそうな
「アナタらしいわね!」
「また行こうな」
「そうね」
「
「うん本当に楽しかった〜!……楽しすぎて帰りたくない……」
「だね……」
「じゃあ明日ね!杏子!」
「うん!バイバイ!」
家族三人だけになると車内は静かになった。だが三人は笑顔だ「笑いの旅」を噛みしめるように笑顔が
「お父さん、お母さん……ありがとう」
「おう!」
「ふふふ、楽しかったわね」
「うん!へへへ」
「笑いの旅」から帰宅した
「あぁん!やっと帰って来たのか?……どこに行ってた?……チャラチャラ遊びやがって!誰のおかげで、生活出来てると思ってんだ!」
「あ……あ……ご……ごめんなさい……」
「お前が相談所にチクったのか!?……オレが稼いだカネで遊びに行きやがって!」
「やめてぇ!
「うるせぇ!……誰に頼んだ!バカにしやがって!オレがぶっ殺してやる」
「あ……な……何の話?……わたし分からない……」
「チクったのはお前以外いないんだよ!」
「――うっ!」
息が止まるほどの衝撃が、
「やめて!お願い!
「何だと!?……お前までオレを突き放すのか!」
男は周りにある物を蹴飛ばすと、梅と母親を殴り続ける
抵抗出来ない暴力により、失いかける意識の中で
「……も……もう……アンタなんかいなくなれぇ!」
男の身体は、
血は出ない「存在がこの次元から無くなった」のだ
「兎角」完全覚醒……「余剰次元」に飲み込まれた
3次元のこの世界で5次元以上の世界に飛ばされたのか。それとも「存在」しているが「認識」出来ないだけなのか。
次の日から
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「杏子、大丈夫か?
「まったく……既読にもならない」
「絶対に家で何かあったんだよ……」
「何かって?」
「あ……ううん……なんでもない」
「お父さん……今日
「そうか……分かった!直接行くと、梅ちゃん自身に迷惑がかかるかもしれないから、明日午後から休み取って相談所に行ってみよう」
「うん、お願いね……ありがとう、お父さん」
「お……お……おう!くぅ〜杏子に言われたらチカラが
「ふふふ、じゃあわたしも明日、忠宏さんと一緒に行っちゃお!」
「お母さんもありがとう!」
わたしのせいなんだ
わたしが家族旅行に
わたしがあの時、お父さんに頼まなかったら
わたしが自分で行動出来れば
わたしが最初から
お父さんとお母さんは死ななかったのかもしれない
深い悲しみの底で触れたのは「
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