第7話 加賀見 亜里珠
今日も朝から
「一華、今日もエッグサンドを作って欲しいんだが」
「持って行くの?」
「ケッ!コイツのことだからどうせ女のご機嫌取りでもするんだろうよ!」
「まぁ間違ってはいないな……美味そうに食ってる女子生徒がいたからな」
「ちょっとアルキ!口説いてないわよね」
「口説くか!」
「
「……お前ら俺のことそんな風に見てるのか。さすがに生徒には手を出さないよ……」
「ふふ、アルキ……そろそろ動くの?」
「もう少しだな……まだピースが揃っていない」
「ピースをとっ捕まえるか?」
「アホかターキー!強引な男は嫌われるぞ。それに「対象」が何人いるかまだ分からない」
「7人じゃないの?」
「俺の見立てでは3人、多くて4人だな……」
アルキはいつも通り校内に入り、生徒達に挨拶をして歩く。今日は、それだけで人だかりが出来る
昨日の「積分コンテスト」の一件で、すっかり有名人になってしまったアルキの周りには、生徒達が集まってくるようになってしまった
こういうことになるかも知れないと思い、他言無用にしていたのだが、アルキは昨日のことは自分にも非があると諦めるしかなかった
まぁ騒がしいのも時間の問題だろう、と生徒達の相手を適当に受け流しつつ職員室に入ると、ここでもやはり居心地が悪い
なぜならアルキは歓迎会の時に、瑠美と抜け出しているからだ。せめて何かあってこの空気ならしょうがないと割り切るが、瑠美とは抜け出して早々に別れている
ヒソヒソと噂話が聞こえたり、アルキと視線が合うと作り笑いで会釈する教員達。修徳高校ですっかり浮いてしまったので、さっさと職員室からも退散しようと教材をまとめていると、佐倉から声が掛かる
「おはようございます。
佐倉は神妙な面持ちでアルキに頭を下げる
「――!いやいや、俺のほうこそすみません!あまり
「私は数学を担当しているのであの解説の時の七面先生はとても……その……素敵でした」
「――すてっ!佐倉先生、良かったら私達の関係も積分していきませんか?」
アルキはハイテンションになる気分を押し殺し、いつもより少し声のトーンを下げて大人の色気を出す
「関係を積分?」
「はい、少し複雑になってしまった関係をスッキリ積分して答えを出しましょう!」
「ちょっと何を言ってるのか理解出来ませんが……私も
「
瑠美がアルキの袖を少し掴み頬を赤らめ上目遣いで見つめる
「――瑠美先生!」
「……どうやら昨日の歓迎会は楽しめたようで何よりです。では授業がありますので」
佐倉は氷のように冷たい視線をアルキに向けてその場から立ち去って行った
「あ……佐倉先生……これは……その……」
言葉を最後まで聞かずに立ち去った佐倉を、目で追いながら後悔する自業自得のアルキだった
お昼休みになると、屋上を目指して階段を上がるアルキの足取りは重い。授業に出ると生徒達から「積分コンテスト」の質問攻め、職員室では佐倉の鋭く冷たい視線が痛い、そんな一日に疲れきっていた
「
「わぁ!ありがとう」
疲れた心も身体も、落ち着く場所に居ると自然と感じなくなるものだ。大抵の人はどこかでそういう場所を見つける、アルキの場合は屋上だ。ここでタバコを吸う、ただそれだけでいい。
聖がこれから相談してくるであろう事も、何ら問題ではない
「アルキ先生、昨日の話の続きなんですけど……僕なりに考えて……やはり
「……そうか」
「でも
「留学のお金ならちゃんと調べたよ!奨学金も亜里珠の学力なら、ほぼ間違いなく受けれるだろうし……しっかりとこの書類にまとめて来た!」
「凄っ!聖やるぅ!」
「亜里珠を放課後ここに呼び出してくれる?杏子」
「了解!」
「アルキ先生も立ち会ってくれませんか?」
「分かった」
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放課後になり屋上に訪れた
「杏子……あの話だよね?この先生にも言ったの?」
「亜里珠、パパ活やってるのは違法ではないと思うけど……危ないからもう辞めなよ」
小柄で高校生としてもまだ幼い雰囲気が残る
どう答えるかも決めている
「杏子……杏子もいろいろあってすごく大変だと思うけど、
「亜里珠……」
「亜里珠、その事なんだけど僕なりに考えて来たんだ!学力も申し分ないし、しっかりこのまま3年まで頑張れば、奨学金を受けることができるよ!しかも卒業後に奨学金を返さなくてもいいようにも出来るんだ!だから今やってる事を、無理してやらなくてもいいんだよ!」
「……そ……そうなんだ……ありがとうね
「じゃあこれで解決だね!あっ……アルキ先生のことは気にしなくても大丈夫だよ!僕達の味方だから、学校に報告なんて絶対しない!」
「……うん」
「良かったね、亜里珠!
「……あ……でも……家にもお金入れてるから、すぐには辞められないかも……奨学金のことはありがたいけど母子家庭だし、
亜里珠は二人と目を合わせようとせず、
「「――え?」」
聖と杏子はあきらかに嘘をついている様子の亜里珠に疑問を抱く。聖が何か言いかけたが、その前にアルキが割って入る
「そうなのか!大変だなぁ亜里珠も!分かった、学校側には内緒にしておいてやるよ!」
アルキは二人の不穏な雰囲気を打ち消すように、大きな声でそう言った
「あ……ありがとうございます
「アルキ先生……どうして肯定したんですか?お金のこと解決したんだから、ここから本当の理由を聞き出すところだったんですよ」
「――え?そうなの
「そうだよ!そうでもしないと、亜里珠は教えてくれないだろ!教えてもらって始めて解決の糸口が掴めるはずだったんだよ!パパ活なんて事をしている本当の理由が何なのか」
「聖……これ以上彼女の気持ちに踏み込むと、お前たちの関係性まで壊しかねない状況だったから割り込んだ……すまんな」
「どういうことですか?」
「マジ?そういう事?」
今度は逆に
「杏子……亜里珠のあの様子だと今日もパパ活やりそうだが、彼女の変身ぶりをその目で見てみるか?見るだけだぞ。ここから先は俺の出番だからな。お前たちは充分頑張った!」
「ま……待って下さい!僕も行きます」
「ついて来るのはいいが、亜里珠を責めるなよ!」
「――え?」
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