第5話 積分コンテスト
この日の午後には、修徳高校の恒例行事である「積分コンテスト」が行われる
基本的には、三年生の希望者や推薦による参加で行われているが、稀に1、2年生からも参加する事がある
今年の1年生からは、「
この「積分コンテスト」で結果を出すと、もちろん評価につながる。生徒の中にはこの日のために訓練をする者もいるくらいだ
まさに有名進学校らしい学校挙げての大行事になる
「今年はあの「八神聖」も出るからなぁ」
「でもまだ1年生なのに解けんの?」
「なんか噂では数学の高校範囲は全部終わってるらしいぞ」
「なんだそれ……バケモンかよ」
「昔から天才って言われてたからなぁ」
「でもそれに勝ったら俺らも天才じゃん!」
「勝てればな……まぁ噂がどこまでか分からんけど」
生徒達は積分コンテストの会場である、体育館に向かう、廊下では
それもそのはず、「
この修徳高校には最新設備が整っており、全校生徒を集めた体育館にも巨大なスクリーンが準備され、応援や観戦をする事が出来る
生徒それぞれが推薦した生徒を応援する事で、この行事を盛り上げていく。よってスポーツ競技のように、歓声を上げてもいい事にもなっているのだ
本選出場者は20名のみ、厳しい予選を勝ち上がった者だけだ
優勝者は評価だけでなく、学校側へ校風や意見を提出する権限を与えられる
「聖、お前1年生で「積分コンテスト」の本選に出るとか凄いなぁ!」
「……七面先生、悠長に構えてますが勘のいいあなたなら僕がこの行事に参加してることの意味を分かってますよね?」
「ずいぶんと自信があるんだなぁ、「探求科の3年生」も出ているんだぞ」
アルキは穏やかな表情で聖を見つめる。心底、褒めている様子だ
「ハァ……あなたと会話すると、自分が
「聖……お前は真っ当過ぎる……やり方が正当過ぎて、俺には否定する事は出来ないよ」
「負けを認めて立ち去る覚悟があると?」
「いや、立ち去るつもりは、もちろん無いよ」
「ハァ……まぁとにかく、荷物をまとめる準備をしといた方がいいですよ。僕が「積分コンテスト」で負ける事は無いですから」
「そんなに追い出したいか?」
「あなたは「探求科」に関わり過ぎなんですよ!」
「百地杏子と伊倉梅の事かな?……なるほど……ふむふむ、そうか……そういう事だったのか……」
アルキは
「……七面先生……いい加減にして下さい!」
「う……すまん……そんなに怒るな、でも分かった事がある!」
「――!何ですか?」
「「探求科」にはやっぱり俺が必要だって事だよ」
「……」
聖は呆れたようで、何も返事を返さずにその場を離れた
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屋上では杏子がスマホの映像を観ている。探求科の生徒がリアルタイムで動画を撮っているのだろう
映像には「積分コンテスト」の模様が映し出されているようだ
「……七面……アルキ……いい先生だとは思うけど……ごめんね……聖が負けることは無いよ」
杏子はそう呟くと、少し切なそうに画面を見つめる
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「積分コンテスト」は圧倒的だった
聖の独壇場と言うべきか、3年生の生徒も相手になっていない
決選までノンストップで駆け上がる聖。相手は探求科の3年生で、数学を探求している生徒だ
最後の二人に出題される問題は3問、どちらが早く解けるかだが、「積分コンテスト」恒例の絶対に解けない難易度が3問目に用意されている
これを見た生徒達はざわつく
「なんだあれ?」
「時間内に解かせる気ねぇだろ!」
「もう2問まで解いてる八神聖くんの優勝で良くない?」
さすがの聖も焦っているのか、懸命に解いてはいるが、書いては消しての繰り返しで答えに辿り着けない。その様子を見ているアルキは、隣にいる佐倉に話しかける
「聖は凄いですね!」
「ええ、彼は「探求科」の中でも特別ですから……」
「……平気なんですか?聖くんが勝つと追い出されますよ」
「おっ!心配してくれてるんですね!」
「なっ……何を言ってるんですか!聖くんが勝てば、私も頼まれ事をしなくちゃいけないんですよ!」
「あぁ……「勝てば」、だったんですね……すみません俺の事で嫌な役を頼まれて……そうか……そうしたら……分かりました!」
「――え?」
アルキはおもむろに、決選が行われているステージへ向かっていく
「ちょっ!ちょっと七面先生!」
佐倉は、アルキが何をするのか不安になり、追いかけるように声を掛ける
「どうするつもりですか!?」
「……いいから、いいから!」
「生徒の大事な行事なんですよ!」
「もう勝負はついてます!それより佐倉先生の不安要素を、取り除いてあげますよ!」
「――え?」
アルキはそう言うと、佐倉に笑顔でウィンクして壇上へ上がる
「聖!3問目に苦戦してるようだな」
「……それでも俺の勝利は動きませんよ」
「聖……今から授業してやる!3問目はこう解くんだ」
決選で戦っていた3年の生徒は、すでに戦意消失している。アルキは3年の生徒のホワイトボードの前に立つと、誰も解けないと思われた問題をスラスラと解いていく
しかも聖にだけでなく、観戦している生徒達にも分かりやすく授業をするように解いていく
この解説を理解している者が、どれだけいるかは分からない。ただこの修徳高校の生徒達にとっては、アルキがどれだけ凄いのかということは伝わっていた
積分を解説し終えると大歓声を浴びるアルキは、聖の手を取り高々と優勝者を讃えた
「今年の優勝は「
「「「オォォ!」」」
手を無理矢理上げさせられた聖も、覇気が抜けてアルキの顔をマジマジと見ることしか出来なかった
なぜならアルキの凄さを一番に感じたのは他の誰でもなく聖なのだから
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「す……凄い……なんなの?……あの人……あの聖ですら完全に敗北してる……」
杏子はスマホの画面を食い入るように観る。画面越しでも分かったアルキの凄さに、彼女もまた、胸の高なりが抑えられなかった
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優勝者スピーチで、聖がアルキに関する事を言及することは無かった。「積分コンテスト」の特権で、アルキを追い詰める予定だったが、それももう出来ない
これだけ、全校生徒の前でアルキの優秀なところを見せられたら、何も言うことは出来なかったからだ
しかも数学はアルキの担当教科ではない
聖は誰にも負ける気はしなかった。だが負けた……負けたというか相手になっていなかった
なぜならアルキの解説を聞いて
この人に教われば自分はもっと上にいける
この後の校長のスピーチでそれが確信に変わる
「この度の予選も含めた「積分コンテスト」に参加をした生徒達の皆さん、お疲れ様です!そして今回も大変な盛り上がりを見せてくれた本選の生徒達に、大きな拍手を送って下さい!」
若々しい女性校長が元気よくそう言うと、全校生徒からの盛大な拍手と歓声により、会場が揺れる
「そして……決選での
「彼……
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「ハァ〜!?マジ?……アイツが?……」
洩れ聞こえる驚愕の声や、歓声を聞きながら画面を見つめる杏子は、小さく映る
「こりゃアイツ……落ちたな……」
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