vol.21 沐浴の泉



   [Ⅰ]



 厄介な冒険者達が去った後、俺達は静かに食事を始めた。

 かなり微妙な雰囲気だったのは言うまでもない。

 おまけに皆、言葉少なであった。

 だが、俺は大して気にもしてない為、彼等の事を訊いてみる事にした。


「ファレルさん、さっきのアルベルトとかいう嫌な感じの剣士と、その一味は何者なんですか? 俺も王都に来る途中、アイツ等に街道で轢かれそうになって嫌味言われましたよ。面倒そうな奴等ですね」

「ああ、アルベルト達か……彼等はこの王都で、一番上の階級のパーティさ」


 沢山ある冒険者のグループにも序列があるようだ。

 まぁこういう輩達は、そういう制度でもないと、なかなか纏まらんに違いない。


「へぇ……そんなのあるんですね。ちなみに、ファレルさん達はどの階級なんですか?」

「階級は金・銀・青銅と3つあるんだが、我々は特例で、アルベルト達と同じ金の階級だ。一応はな……」


 なんかよくわからんが、某星座戦士漫画のような階級であった。


「へぇ……特例ですか。という事は、さっき団長が言ってた……何とかの誓いとやらが関係してるんですかね?」

「エイシュンさんは色々と鋭いな。その通りだよ。だが……今はその話はしないでおこう。すまないが、理由は訊かないでくれ。何れ、話す時が来るだろうから」


 ファレルさんは目を閉じ、もどかしい表情でそう言った。

 やはり、他人には話せない何かがあるようだ。


「いいですよ。訊かないでおきます。しかし、色々と大変みたいですね。さっきのアルベルトとかいう輩の話を否定しないところを見ると、全くの嘘でもないという事ですか?」


 俺の問いかけに、ファレルさんとサリア、そしてリンクとルーミアさんは食事の手を止め、意気消沈したかのように俯いた。

 まぁこの反応だけで、大体の事情はわかるところだ。

 恐らく、当たらずとも遠からずなのだろう。


「ああ……貴方の考えている通りだよ。アルベルトの言ってる事は、ある意味では事実さ。優秀な冒険者が見つからない事や、見殺ししたという話もな。これが俺達の現状だ。どうだ、エイシュンさん……嫌になったか?」

「いや、全然。そういうのは、よくある話なんでね。特に何も思いませんよ」


 俺は素直に答えておいた。

 職業柄、人の浮き沈みは良く目にするので、たいして驚く事でもないからだ。


「まぁでも、これで謎が解けましたよ」

「謎が解けた?」

「はい。見ず知らずの俺をやたら勧誘してきたのでね、少しは気になってたんです。幾ら魔法が使えるからといって、得体の知れない旅人をいきなり仲間にするのは、結構、勇気がいる事ですからね」


 すると、ファレルさんは苦笑いを浮かべた。

 ビンゴなのだろう。


「フッ……エイシュンさんには敵わないな。貴方の言う通りさ。ある出来事がきっかけで、俺達に協力してくれる優秀な冒険者はいなくなってしまったんだ。そこに来て……アルミナ達の一件だ。正直、俺達は途方に暮れていたよ。探しに行くにいけない状況だったんでな。だが……あのレントの宿で、俺は貴方と出会った。そして、あの魔法を見て、俺は貴方に賭けてみる事にしたんだ。結果はこの通りだよ、エイシュンさん。予想以上に良い結果を得られた。それもこれも……貴方のお陰だよ」


 ファレルさんは罰が悪そうに、そう答えた。

 結構踏み込んだ事を訊いたので、ちょっと悪い気もしたが、こればかりは仕方がない。

 俺にも影響する話だからだ。


(なるほどね……そういう事か。ある出来事とは恐らく、アルベルトとかいう剣士が言っていた『見殺し冒険者』というキーワードの事だろう。それが原因で、優秀な冒険者の協力が得られなくなったに違いない。ま、詮索はしないがな……)


 色々と事情もあるようだが、俺は話を続けた。


「そんな経緯があったのですね。確かに、そこまで追い込まれていると、藁をも掴みたくなりますね」

「そういうことだ……すまないな、エイシュンさん。俺達の面倒に付き合わせてしまい……」


 ファレルさんはそう言うと、表情を少し落とした。

 他の仲間達は何とも言えない表情で、黙々と食事を続けている。

 少々、雰囲気を悪くしてしまったようだが、俺はまだ引っ掛かっている事があったので、それを訊ねる事にした。


「あらら、暗い雰囲気になってしまいましたね。すみませんね、皆。ですが……少々気になってる事があるので、このまま話を続けさせてもらいますよ。ええっと……それと、さっき騎士団長が言ってましたが、救出された者達は皆、元騎士団所属の冒険者というのは本当なのですか?」

「ああ、本当だ。といっても、全員ではないがな。だが、パーティーの責任者は全て、アレングランド騎士団に所属していた者達だ。それがどうかしたのかな?」


 これはかなり重要なポイントに思えた。

 それと同時に、なにかシナリオめいたモノを感じたのである。

 俺の直感がそう告げているのだ。

 それに加え、騎士団長が言っていたワレムという名の男の話も気掛かりであった。

 何れにしろ、この一連の案件は注意した方が良さそうである。


「妙ですね……境遇が似たパーティが、あんなに沢山、干物野郎の餌食になってたなんてね。凄い偶然もあるものです。4組のパーティがやられてしまったんですから。まぁ俺達を入れて5組とも言えますが。どう思います、ファレルさん?」

「どう、とは?」

「2回くらいは偶然というのもわかりますが、5回ともなると、俺は別の事を疑ってしまいますよ」


 仲間達は一斉に俺を見た。


「どういう事だ?」

「そうよ、別の事って、どういう意味なの?」


 ファレルさんとサリアはそう言うと、眉根を寄せ、首を傾げた。


「逆に考えればいいんですよ。偶然、元騎士の冒険者パーティが襲われたのではなく、狙われたんじゃないか? って事です」

「な!? 狙われた、だと……幾らなんでも、そんな事ある筈ないだろう。偶々に決まっている。大体、責任者が元騎士というだけで、普通の冒険者もいるんだからな」


 ファレルさんの言葉に全員が頷いていた。

 こんな荒んだ世界だと、柔軟に物事を考えるのは難しいのかもしれない。


「では、ファレルさんに訊きますが、元騎士団のパーティはどのくらいあるんです? そんなに多くはないんじゃないですか?」

「確かに、その通りだが……それは幾らなんでも考えすぎだろう。それに最近は、爪痕に向かう冒険者も減ってきているんだ。だから偶然、元騎士のパーティが、奴の罠に掛かっただけな気がするがな。考えすぎなんじゃないか、エイシュンさん」


 ファレルさんは、本当に人の良い男であった。

 悪くはないが、大事なところで判断を誤りそうなタイプである。

 とりあえず、俺の意見を述べよう。


「ファレルさん……確率的に低い事が起きてるんです。そういう考え方もできるんじゃないでしょうか。そして……もし仮にそうなら、貴方達のお仲間が王都を追われたのも、何者かの差し金と考える事も可能なんですよ。バーンズ一家を雇ってね」

「ま、まさか、そんな事……」


 俺の指摘に皆は息を飲んでいた。

 これはさっきのやり取りを見て思いついた可能性の1つである。

 そして、あの干物野郎もそれに1枚噛んでる可能性もあるのだ。


「エイシュンさんて……色々と思いつくんだな。俺はそこまで考えられないよ」


 リンクはキョトンとしながら俺を見ていた。

 他の皆は何とも言えない微妙な顔であった。

 あまりそういう風には考えれないのだろう。


「ま、何れにしろ、今のは俺の適当な意見です。ただ……頭の片隅には入れておいた方が良いと思いますよ。何事も決めつけるのは良くないと思いますのでね」


 俺の指摘に、ファレルさん達は困った表情で顔を見合わせた。

 するとそこで、隣にいるミュリンがボソボソと小さく呟いたのである。


「お父さんが雇われたですって……そんな事……でも、もしかして……」

「ん? どうかしたか、ミュリン。難しい顔してるけど」


 ミュリンは俺の呼びかけにハッと振り返った。


「う、ううん、何でもないわ。ちょっと昔の事を思い出してただけよ」

「そうか。悩み事でもあるんなら、話くらいは聞いてやるぞ」

「エイシュンて優しいね。でも、悩みは今のところ大丈夫よ」


 ミュリンはそう言って俺にしなだれかかってきた。

 なんとなく誤魔化してる感があるのが気になるところだ。

 まぁいい、飯でも食うとしよう。


「さて、すいませんね、折角の打ち上げの場なのに妙な事を言って。気を取り直して食べますか。この後、沐浴の泉とやらにも行きたいのでね」――



   [Ⅱ]



 お腹も膨れたところで、俺は女性陣と共に、沐浴の泉とやらにやって来た。

 今は夜なので姿はぼんやりだが、その大きさや佇まいはなんとなくわかった。

 その施設はパルテノン神殿のような丸柱が並ぶ建造物で、玄関前には、美しい女神の彫像が建立されていた。

 そんな建物であったが、日中ならばもう少し違った印象を受けるのだろう。

 ちなみに今は、人の出入りはそんなに多くない。

 ルーミアさんのような司祭服を着た女性の出入りが多少あるだけであった。

 中は案外人が少なそうである。

 まぁそれはさておき、こんな厳かな所で入浴することになるとは思わなかったが、これも何かの縁だろう。

 何れにしろ、ようやく俺は身体を綺麗に洗うことができる。

 今はそれを行う事を優先しようじゃないか。

 2週間ぶりの風呂を満喫するとしよう。

 だが1つ気がかりなことがあった。

 それは何かというと、同行者であるミュリンやサリア、それとルーミアさんがやけに言葉少なだったからである。

 というか、ルーミアさんはそうでもないのだが、ミュリンとサリアは少し恥ずかしそうにしているのだ。

 2人の態度が気になるので、俺も一応、訊いてはみたのだが、はぐらかされるばかり。

 その為、釈然としない何かが俺の中に渦巻いているのであった。

 だが、沐浴という名の入浴をするだけなので、そう大した懸念もないだろう。

 よって何はともあれ、まずはGoである。


「ここが沐浴の泉ですわ、エイシュン様」

「立派な入浴施設ですねぇ。さぞかし大きな浴場なんでしょう。足を伸ばしてゆったりと入れそうです」

「やだもう、エイシュンたら……足を伸ばしてだなんて」


 ミュリンとサリアは口元を押さえ、少し恥ずかしそうにしていた。

 何、その反応?


「エイシュン様は初めてと思いますので、ここでの掟を説明させて頂きますわ」

「掟? ルーミアさん、そんなのあるんですか?」

「それが、3つあるんです。非常に重要な掟ですので、よく聞いてくださいね」

「へぇ……で、どんな掟なんです?」

「まず、1つ目ですが……沐浴の泉は男女共に入れるのです。ですが、男性は目隠しをして頂きますので、ご理解ください」


 いきなりわけのわからない掟であったが、どうやら混浴らしいので、間違い起こさせない為の対策なのだろう。

 というか、混浴なのかよ。ラッキー。


「ほう、混浴ですか……なるほど。そして、男は目隠しという事ですね。わかりました。して、2つ目は?」

「では2つ目ですが……男性は自ら身体を洗う事は出来ません。洗うのは親しい女性か、もしくはグランディスの司祭となりますので、ご理解くださいね」

「マジすか。つまり……俺は何もしなくていいと?」

「はい、身体を洗う事に関してはそうなりますね」


 おおう……ここはソープランドシステムかよ。もしくは│湯女ゆなのシステムか。

 凄いやんけ。楽しそうじゃん。ヒャッホー。

 中で目隠しのマットプレイとかあるんじゃないだろうな。

 うひょひょひょ、めっちゃ行きたくなってきた。

 というか、イキたい。

 そこで肩にいるサタが囁いた。


「お主、さっきから嬉しそうじゃのう……この好きモノめ」


 ほっとけ、エテ公。


「なるほど、素晴らしいシステムですな。で、3つ目は?」

「その3つ目が非常に重要な事なので、心して、よく聞いてくださいね」

「わかりました。どうぞ、続けてください」

「では、その3つ目ですが……もし、沐浴の泉にて、不純な動機で目隠しを取り、そして、女性達の裸を見てしまった場合は……」


 ルーミアさんはもったいぶったようにタメを作ってきた。

 俺は我慢できず催促した。


「見てしまった場合は何なんです? 鶴に変わるとかいうのはナシですよ」

「……責任を取ってもらいます」


 予想外の言葉が返ってきた。

 意味わからん答えである。


「え、責任? って、何のですか?」

「勿論、不埒な目で女性の裸を見た代償でございますわ。貴方が独り身の方ならば、担当している司祭の2つの望みをどちらか聞き入れなければなりません。既に婚姻を結んでいる方ならば1つです」


 なんかヤバそうな感じだが、リスクは訊いておこう。


「それは怖いですね。でも、独身のほうが選択肢多いんですね。ちなみに、司祭の2つの望みって何ですか?」

「教団へ多額の寄付か、もしくは、担当の司祭と一生を添い遂げて頂くことになるという事です」

「添い遂げって……ええ!? 婚姻関係結ぶって事!?」

「はい、司祭が望むならば、そうなります。そして、その暁には、グランディスの婚姻の魔法契約を結んで頂くことになりますので、注意してくださいね。強い魔法契約ですので、もう逃げられませんよ。まぁそういう掟なのですが……今回は、私が担当させて頂きますので、安心して沐浴してくださいな。うふふふ」


 そしてルーミアさんは、可愛らしく微笑んだのであった。

 恐るべき異世界ソープじゃなかった、沐浴システムである。

 しかし、何という事だ。

 迂闊に目隠しを取れないプレイとなりそうだ。


「そうよ。だから心配なの。というわけで私も一緒に行くからね、エイシュン。私も貴方を洗ってあげるわ」

「私だって! 私はエイシュンさんの弟子なんだから、そんな事にはさせたくないの!」


 ミュリンとサリアはルーミアさんに向かい、不敵に微笑んだ。

 すると、ルーミアさんは穏やかに微笑み返したのである。


「あらあら……そんなに意気込まなくても大丈夫ですわよ。今はね……うふふふ。では行きましょうか、エイシュン様」

「お、お手柔らかにね」――


 そして俺は、未知の世界へと足を踏み入れたのである。


 余談だが、素晴らしい水風呂だったと言っておこう。

 またイキたいと思わせるくらい、非常にエキサイティングな体験だったよ。

 洗ってくれた彼女達も、俺の反り立った物欲し竿を見て、興奮し満足したようだ。

 ミュリンもそれを見て、「凄いよ、エイシュン……ちょっと触るわよ。やだ……凄く硬くて太い……ギンギンじゃない。こ、こんなの私の中に入るのかな……どんな風になるのよ……でも頑張るんだから」なんて言う始末。

 サリアも、「こ、こんなに大きいの……エイシュンさんのって。エイシュンさんには驚かされてばかりね。どうしよう……私も変な感じになって来ちゃったじゃない。というか、剣の束並にカチカチよ、コレ……初めて男の人の触ったけど……凄いわ……なにこれ……素振りできそう」などと、わけわからん事を言っていた。

 また、ルーミアさんに至っては、「あらあら、凄いですわ……これはまた、ご立派です事。この神聖な沐浴の泉で、ここまで堂々と起き上がった方を私は初めて見ましたわ。生命力が漲っているのですね。ですが……この状態で目隠しが取れたら、言い逃れできませんわよ、エイシュン様。責任取ってもらいますから……うふふふ」なぁんて事を言っちゃってたのだ。

 3人とも俺の性剣エクスカリボーを見て、興味津々だったのである。

 しかも、3人とも満更でもない感じだったのだ。

 オラ、ワクワクしてきたぞ。

 ちなみにサタもその場にいたのだが、そこでコイツは「見事なイチモツじゃわい……こんな場所で遠慮せず、堂々と天狗になるとはのう。どんだけ図太い神経しとるんじゃ、お主は……。前田慶次郎利益に匹敵するくらいの傾奇者じゃのう」と、少し呆れていたのである。

 図太くないと拝み屋稼業なんてできねぇんだよ、ほっとけ、エテ公!

 まぁそれはさておき、│倫上開放りんしゃんかいほうの責任払いがあるこの状況では、倍プッシュされる可能性がある為できないが、いつの日か、彼女達と縛りなしで触れ合いたいモノであった。

 そして、その暁には、僕個人の話をするのであれば、最高の英舜を披露する事を約束するよ。などと考える、今日この頃だったのである。


 以上、沐浴の泉体験リポートでした。

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我、迷い込みし者也 書仙凡人 @teng45

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