vol.7 思わぬ再会

   [Ⅰ]



 イケメン戦士はファレルというらしい。

 歳は23と言っていた。

 俺の1つ下だが、このアレングランドの1年は400日らしいので、実際は同い年くらいかもしれない。

 まぁ厳密に考えても仕方ないので、便宜的に考えるとしよう。

 で、本題の依頼内容だが、悪魔の爪痕内にある『捻れの回廊』と呼ばれている区域へ、捜索に行きたいとの事であった。

 ファレルさん曰く、行方不明になったパーティは、アレングランド冒険斡旋所に、そこへ行くと伝えて向かったからだそうだ。

 ちなみに、このアレングランド冒険斡旋所が、ゲームとかでよく見かける職業組合ギルドの役割を担っているみたいである。

 そして、王の御触れにある『悪魔の爪痕探索者』への登録も、ココが取りまとめているとの事であった。

 意外と機能的になってはいるようだ。


「一応、今話した通りだが……どうだろうか?」

「まぁ話は大体わかりました。ところで、ファレルさんのパーティは今、4名いるそうですが、どういった方々なんですか? できれば、パーティでの役割的な事を教えてもらえると、ありがたいんですが」

「ああ、それを言ってなかったな。ええっと、まず俺と妹のサリアは剣士だ。それと、さっき悪さしたコミット族のリンクは、行動力を買っていて、偵察や監視と、戦いの補助をしてもらっている。そして、今は一緒にいないが、もう1人はグランディス教の司祭で、ルーミアというアールヴ族の女性だ。グランディス教の司祭は、回復と補助魔法が使えるので、ルーミアには、それをお願いしているんだよ。まぁこんな感じだな」


 う~ん、ファンタジーですなぁ。

 前衛・中衛・後衛の構成ってやつですか。

 この中に俺が入るとすると、どうなるんやろ。

 某ダンジョンゲームに出てくる侍のポジションが近そうだが。

 まぁそれはともかく、サタの言っていた宝玉の件が気になるし、とりあえず、行ってみるか。

 ヤバそうになったら、真紋の奥義を駆使して、俺だけでもトンズラしよう。


「そうですか、ありがとうございます。それとちなみに、報酬はどのくらいですかね?」

「依頼の成功報酬は5000グランだが、目的の5人全員が生きて連れ帰れるなら、倍の10000グランになる。それを分ける形になるから、1人最低でも1000グラン以上になるだろう」

「1000グランか……」

「それだけじゃない。悪魔の爪痕内部には、魔物共の財宝も時々あるから、売れば結構な収入になるかもしれないぞ。どうだろう? 手を貸して貰えないだろうか?」


 本当にゲームみたいな話だ。

 某ダンジョンゲームのように、阿漕なボッタクリ商店みたいなのがありそうである。

 まぁいい。とりあえず、返事をしよう。


「わかりました。では、今回は勉強がてらに同行しますよ。俺もアレングランドは初めてなんでね」

「おお、本当か!? ありがとう。よろしく頼むよ。じゃあ、ちょっと一緒に来てくれるだろうか。仲間達に、改めて紹介したいんだ」

「いいですよ」――


 というわけで俺は、Wizardryモドキ体験ツアーに同行する事になったのである。

 さて、どんな陰気なダンジョンが待っているのやら……。



   [Ⅱ]



 サリアとリンクという冒険者と顔合わせした後、また夜になったら、ジェニアの酒場で落ち合う段取りで、御開きになった。

 ジェニアの酒場とは、俺が昨晩入ったあの大きな酒場である。

 まぁそれはさておき、少々、面倒な展開にはなったが、とりあえず、宝玉の件が気になるので、その検証をする為の冒険になるだろう。

 サタの言っている事が事実ならば、色々と試す必要があるからだ。


(こうなったら仕方ない。異世界の冒険を少ししてみるか。悪魔の爪痕なんぞに行くつもりはなかったが、サタにああ言われるとな。俺もこんな世界からは、とっととオサラバしたいし……ン?)


 ふとそんな事を考えていると、同行者のリンクが俺に振り向いた。

 さっきの顔合わせで、街の案内をリンクがしてくれる事になったからだ。

 ファレルさんが気を利かしてくれたのである。

 まぁ穿った見方をすると、逃げないよう、見張りの意味合いもあるのかもしれないが。

 ちなみに、ファレルさんとサリアさんは別行動だ。


「エイシュンさん、今朝はゴメンよ。でも、もう一度言うけど、俺はアンタの剣を盗もうとしたわけじゃないんだ。逆にアイツ等から、護ろうとしたんだから」 

「それはもうわかったよ。盗みの現場を見たから止めに入ったって事だろ?」

「ああ、そうだぜ。でも、あんな罠が仕掛けられていると思わなかったから、俺まで巻き込まれちゃったけどさ」


 というのが、リンクの言い分だ。

 ファレルとサリアの兄妹も、そう言って弁明はしてたから、素行はそこまで悪くないんだろう。

 それにしても、コミット族とは小さい種族である。

 身長は俺の腰くらいしかないからだ。

 とはいえ、見た目はほぼ人間そのものであった。

 ちなみにリンクは、ピーターパンを思わせる緑色の衣服を着ており、かなりすばしっこそうな奴であった。

 某ゲームのキャラと名前が同じな上、格好が似てるので、どうしても被って見えてしまうところである。

 また、腰には剣を帯びているが、小太刀くらいのサイズであり、柄の部分が短いモノであった。

 恐らく、コミット族専用の武具なんだろう。


「ところでエイシュンさん、ファレルさんから、街の案内をしてあげてほしいとお願いされたけど、どこに行きたいんだ?」 

「そうだな……この近辺で服売ってる店があったら案内してほしいな」

「服? なら、武器と防具と様々な道具を扱っているオスギュリア武器防具店に案内するよ。ついてきて」――



   [Ⅲ]



 オスギュリア武器防具店は少し進むとあった。

 アレングランドの中心部に位置する大通り沿いにあり、それなりに大きな建物である。

 石造りのゴツイ2階建ての建物で、なかなかの売り場面積がありそうな店だ。

 玄関上部の壁には、剣と鎧が描かれた大きな看板が、高々と掲げられていた。

 とりあえずそんなお店だが、今は朝とはいえ、だいぶ明るくなった事もあり、結構な客が出入りしていた。

 戦士や魔導師に盗賊系装備の輩が、入れ替わり立ち替わり、入ってゆくのが見える。

 これを見る限り、冒険者御用達のお店なんだろう。


「エイシュンさん、ここだよ。さぁ行こうか。服は多分、2階だよ」

「ああ」


 中に入ると、壁や棚に陳列された剣や槍に斧、それから、弓に棍棒みたいな武器が沢山視界に入ってくる。

 ちなみに、それらは西洋風のモノばかりであった。

 中世ヨーロッパ風のファンタジーRPGの店をリアルにすると、こんな感じなんだろう。

 また、予想通り、店内には沢山の客がいた。

 剣の試し振りをしている戦士の姿も、そこかしこに見受けられる。

 現代日本ではまず見る事がない光景なので、凄く新鮮であったのは言うまでもない。

 そして、そんな1階を抜け、俺達は防具類がある2階へと向かうのであった。

 2階は防具売り場というだけあり、鎧や盾に兜が幅を利かせていた。

 だが、布製のローブや服もちゃんと売られているので、とりあえず、ここで探すとしよう。


「エイシュンさん、ここに服が売ってるから、好きに見てくといいよ。俺もその辺にいるから、何かあったら呼んでよ」

「ああ、そうするよ」


 というわけで、ちょいと品定めだ。

 俺は早速、布製品が並ぶブースを見て回った。

 だが、種類が少ないのか、どれもこれも似たような作りの物ばかりだった。

 見た感じだと、中世欧州で着られていたようなチュニック系の衣服が多いようだ。


(へぇ……デザイン的にはカッコいいのもあるが、着てみないと着心地がわからんな。値段は大体300グラン前後か……意外とするな。ン?)


 ふとそんな事を考えながら衣服を見ていると、そこで隣にいた女性客と目が合ったのである。

 知っている女性だったので、俺は少し驚いた。

 向こうも同じだったのか、俺を見るなり、息を飲んでいたのだ。


「ア、アンタは!?」


 そこにいたのはなんと、昨夜、俺が悪戯したあの女盗賊であった。

 まさかこんな所で会うとは……。

 今日の彼女は、昨夜のようなファッションではなく、白いワンピースのようなモノを着ていた。

 こういう格好をしていると、少女みたいに可愛い感じである。

 それはさておき、とりあえず、普通に挨拶しとこう。


「おはようございます。今日は、いい天気ですね。そして……昨夜はどうも」


 すると女はカァっと赤面し、恥ずかしそうに俯いた。


「さ、昨夜はどうもって……」

「ところで、今日は服を買いに来たのかい?」

「そうよ。悪い」

「俺が昨夜、いらん事して汚しちゃったからな。ごめんね。誰か知らないけど」


 女はまた赤面した。


「よ、汚し……って、違うわよ! 私は普通に服を買いに来たの! 変な風に考えないでよね!」

「へぇ、そうなの。じゃあ、俺からの提案だ。昨夜の服装より、今のその格好の方が、君には似合っているよ」

「え? この格好?」


 女は意外だったのか、俺の言葉を聞き、自分の服装を見回していた。


「ああ。そっちの服装の方が可愛く見えるしね。ま、とはいえ、ああいう盗賊稼業をするのなら、やめた方が良い服装だけどな」


 俺はそう言いながら、沢山ある吊るしのチュニックを眺めていた。

 すると、女はなぜか、俺に迫ってきたのである。


「ああ! アンタ、また、盗賊って言ったわね!」


 女はなぜか怒っていた。


「ン? 違うの? 昨夜、正に、それをしようとしてたじゃん」 

「違うわよ! アンタに言っとくことがあるわ。私はね……バーンズの娘よ。あまり変なこと言わないでよね」

「バーンズ?」


 よくわからんが、盗賊ではないと言いたいのだろう。

 そこで、リンクがひょっこりとやって来た。


「どうしたんですか、エイシュンさん。なにか揉め事でも?」

「ン? ああ、ちょっとこの人とね」


 リンクは女に視線を向けた。

 すると女を見るや否や、リンクは眉を寄せて嫌そうな表情になったのである。

 たぶん、曰く付きの女なんだろう。


「エイシュンさん……バーンズの娘さんじゃないですか。何があったんですか? 不味いですよ……この女とは、あまり揉めない方が良いです」


 リンクは俺に囁くように、そう言った。


「その前に、バーンズって誰?」


 と、その時であった。


「バーンズとは俺の事さ。何か用か、うちの娘に」


 少し離れた所にいる図体のデカいスキンヘッドの男が、そう声を上げたのだった。

 クイーンのフレディマーキュリーを思わせる上半身裸の男で、筋骨隆々な上に、龍のようなタトゥーが腕と胸に入っていた。

 身長も2m近くあり、体重も100kgは優に超えるだろう。

 眼つきも悪く、明らかに俺を威嚇している感じだ。

 もう見るからに、ならず者の風体といったところである。


「いや、ただ単に、娘さんと世間話してただけですよ、お父さん」

「お前に、お父さんなんて言われる筋合いはねぇなぁ」


 などと言いつつ、その男は俺達の前にやって来たのであった。

 リンクはその男を見て萎縮したのか、すぐに逃げれるよう、少し後ろに下がっていた。

 ちょっとビビっているようだ。

 さて、どうなることやら。

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