第4話 失敗続き
あの二人組が自分たちのバンド名を名乗り始めてから、一週間がたった。
桃音はなにもしないままだった。亜紗はそんな彼女に不満を持っていないわけではなかったが、自分の仲間がストレスを感じながら勉強を続けているのを見ると、何も言えなくなるのであった。
「ごめん、亜紗。テストが終わったら、絶対なにか考えるから」
桃音は彼女にそう繰り返した。
少女は焦っていた。テストがたくさんあり、全部やる暇がまったくなかった。なぜか頭になにも入ってこなかった。それはインスタに来る誹謗中傷まがいのコメントのせいかもしれなかった。
いずれにしろ、彼女は毎日大学内を教科書を持ちながら走り回った。
「ああもう、どうしよう、どうしよう……」
唇からこぼれる言葉は不安ばかり。桃音のこんな憂鬱な気分を払拭することができるのは、良助との会話だけだろう。だが、こんなときに限って彼と会うことができない。彼もテストで忙しいのだろう。
空きコマを使って勉強をしようと、桃音は図書館に向かった。
その途中、よく知っている笑い声を聞く。
「良助……?」
桃音は期待して後ろを振り向いた。
そう、確かにそこには良助が立っていた。だが、一人ではなかった。数人の女子たちが彼を取り囲んで、楽しく会話をしていた。
「っ……」
桃音は心にひびが入ったのを感じた。
痛い、痛い。なんでだろう。ただ女の子と話しているだけじゃないか。
自分を納得させようとしたが、やっぱりどうしても彼から目が離せない。
一人の女の子が良助に何かを話しかけ、良助はさらに大きな笑い声をあげるのが見えた。その光景を見た桃音は、まるで心という池に重い石が投げられた気持ちになり、体が完全に硬直してしまった。彼女はその場を立ち去るべきだとわかっていたが、足が動かなかった。
桃音がそこで長いこと立ち止まっていたせいか、ふと良助の目が彼女の姿に気づき、目線がぶつかった。だが、それは一瞬のことであった。彼はすぐにまた女の子たちに目を戻し、話を続けた。
桃音はそこでひどくショックを感じた。耐えきれなくなった彼女はその場を去った。図書館についても、彼女の頭の中はさきほどのシーンがくるくると回っている。
「はぁ……」
勉強にも集中できず、桃音は悲痛なうめき声を上げた。胸は失恋したときのように、ずきずきと痛み続けた。悲しみと腹立たしさが自分を同時に襲ったが、やっぱりどうにもならなかった。
うまくいかなかったのは勉強と恋愛だけではなかった。やっと終わったテスト後に入ったバイトも散々であった。
「あんたやっぱり敬語おかしいよ! いい加減にして! 前も言ったじゃない!」
「はい……すみません……」
いつものうるさいバイトの先輩に言われて、桃音は俯いた。敬語の勉強を頑張ってはいた。だが、確かに緊張のせいでうまくいかないことがあった。
女はため息をついて、嫌そうに呟いた。
「ほんとひどいわね、あんた。本当に母語日本語なの?」
「えっ」
桃音の心臓がそこで一瞬止まった。体が震えてきてしまう。
自分は努力してきた。日本人になろうと、常に頑張ってきた。それでも、自分は外国人と認識された。今までやってきたことすべてが無駄になったように感じた。
やっぱり人は容姿でしか判断してくれないんだ。
桃音は泣きたくもなったし、怒りたくもなった。だが、その場ではぐっと我慢して、なんとか仕事を終えた。
茶髪の少女は帰り道を静かに歩いていたが、一通りの少ない道へ出ると突然鞄を落として蹴った。
「もういい!」
彼女は叫んだ。
「辞めてやる! このクソバイト!!」
家に怒りながら帰ってきた桃音を見て、亜紗は驚いたが特にショックを受ける様子はなかった。彼女は何回か、自分の親友のこの状態を見たことがあったのだ。
「やるぞ、亜紗」
桃音はいきなり力強く告げた。
「あのパクリ野郎どもを潰す!」
拳を突き上げた彼女に、亜紗はにやりと笑いかけた。
「そうくると思っていたぜ、相棒」
「あんたの言った通り、やつらを公開処刑にしてやろう!」
目を輝かせながら、少女は言う。真夜中、二人の極秘作戦が発案された。
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