第3話 著作権法違反

「はあああああッ?!」


 桃音の大学で起きたパクリの話を聞いた亜紗は、思わず怒鳴り声を上げた。


「それにうちらが作ったアカウントを偽物扱いして、ブロックしてほしいです、って呼びかけてた」


 亜紗はすぐに携帯に飛びつき、SNSのページを開いた。確かにフォロワーはがくんと減っていて、コメント欄には誹謗中傷じみたことが書かれている。


「マジじゃん! なんなんあいつら?! なんでそんなことするん?! ていうかなんでみんなわからないの?!」


「うちらが顔バレしないように、わざと照明暗くして、濃いメイクしているからでしょ」


 疲れ切った桃音は適当に答えた。だがそれで亜紗の怒りが収まるわけでもない。


「こいつらさっさとぶっ飛ばして、屈辱を味わわせないと……私たちが嘘つきになっちまう!」


「え、でもどうやってうちらが本物ですって証明するの?」


「そりゃあ方法は一つしかないだろ」


 亜紗は大まじめな顔で言った。


「そいつらが威張っているところに出向いて、勝負しようぜって言うんだ。音楽対決だよ! あいつらがどんなやつだろうが、私たちに勝つことなんて不可能だ!」


「えっ」


 桃音は不安そうな顔をした。


「でももし私がハルモニアってバレちゃったらどうすればいいの? 皆に……嫌われちゃう」


「なんで?」


 亜紗はわからないと言ったように首を傾げた。


「だって……」


 日本人らしくないから。


 日本人は目立ったことなんてしない。「雉も鳴かずば撃たれまい」なんていうことわざがあるくらいだ。すでに顔のせいで認知されやすい自分が、人気バンドなんてやってはいけないんだ。


 それに良助がそれを見たらなんて思うか……


 いや、ダメだ。絶対に気づかれちゃいけない。


「とにかく目立っちゃダメなの。私たち幼少期からこの顔のせいで、いろいろ受けてきたでしょ? もう私、あれだけは嫌なの」


「でもあんたの大学国際的じゃん。今更差別とかないだろ?」


 亜紗は彼女の肩を掴んで語り掛ける。


「桃音、あんた自信持ちなよ。あんたは私と違って、反抗なんかしない、家族思いで、トリリンガルで、歌の才能がある、優しいいい子じゃないか。どこに嫌われる要素があるのさ」


「ごめん、本当に……本当に無理なの……」


 桃音は弱々しく呟いて、洗面所に消えた。


「……」


 取り残された亜紗は少し悲しそうに眉を下げる。


 桃音は水道の水を出すと、一度ばしゃりと顔を洗う。それから、自分の自信なさげな表情を見た。

 良助のことは亜紗に言っていなかった。亜紗はもともと恋愛にはあまり興味を持たないタイプなので、話す必要はないと思っていたのだ。


「はぁ……もう嫌だ」


 亜紗の言う通り、あいつらはどうにかしなければならない。あれらのせいで「Luminis Rebellio」の評判が下がったらたまったものではない。なんだかんだいってあのバンドは、社会に自分をさらけ出す唯一の方法だった。


(まあ……どうするかはあとで考えよう……)


 桃音は疲れていて、どうも対策を考える気分ではなかった。

 それからテスト期間が近づいてきた。桃音には大量のテストが待ち受けていたのだ。その勉強を優先しなければいけなかった。

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