2.初デートは成功なのか?

土曜日の朝───



強烈な眩しさを感じて目が覚める。


初デート当日の朝だ。


昨夜は興奮して寝つきが悪かったので『目覚まし』をセットしておいて良かった。

ネオオプティクスは強烈な光で起こしてくれる。


お気に入りの青いシャツとジーンズに着替えて、鏡の前でセルフチェック。

普段は気にしないような小さなシワや汚れが、今日はとても気になる。


「よし。これで普段どおりだ」


玲奈のアドバイス『自然体でいるのが何よりも大事だから』オッケー!


念のため、AR機能をOFFにして、もう1度チェックした。


今の時代、基本的にAR機能は常時ONなので、うっかりしているとヤバいことになり兼ねない。

実際、たまにネットで話題になったりもする‥。


「オールOK!」


リサちゃんの動画をリピートする。


『それじゃ翔くん、週末、楽しみにしてるね♪ばいばぁ~い♪‥‥それじゃ翔くん、週末、楽しみにしてるね♪ばいばぁ~い♪‥‥それじゃ翔くん、‥‥』


か・可愛いー♡

もうすぐ実物にお会いできる。そう思うと胸が高鳴る。



《脈拍の異常を検知》



昨夜から何度も見た、ネオオプティクスの警告表示だ‥。

深呼吸して心を落ち着かせる。


(ふ~~~~~~‥‥ふーーーーーーっ)


いざ、出陣!!





駅前───


待ち合わせの時間より10分早く到着。


健太のアドバイス『待ち合わせの5分前には到着するべし』オッケー!


「翔くん?」


突然、背後から声を掛けられて、ビクッ!となったが、振り返ると、そこには‥


天使が舞い降りていたーーー♡


彼女の容姿については、おまいらの想像に任せるとしよう。

最高に可愛いの更に上をいく、それが彼女、リサちゃんだ。


『それ、CGじゃね?』ってツッコミは無しで‥。



「ぁ、お・おはよー‥ございます?翔です!」


「あはは☆なんで敬語なのぉ?えっと、リサです。待たせちゃったかな?」


「えへへへ、待ってない‥っす。お・ぼくも今来たとこ‥」



《血圧・脈拍の異常を検知》



こら!警告表示で視界を塞ぐな!!


みっともないファーストコンタクトではあったが、彼女の笑顔に癒されつつ、このあとは流行りの映画を観に映画館に向かった。





映画を観たあとは、近くの喫茶店へ。


「あたしはー‥アイスティーにしよっかな。翔くんは何にする?」


「ぁ、じゃぁ、アイスコーヒーで‥」


「ふふっ、まだ緊張してるの?でも‥カワイイ☆」


「あは・あはは‥実は、こういうの、は・初めてで‥‥(そうだ『チャット・キューピット』を‥)」



《おすすめの話題》

《相手の趣味について聞いてみましょう。例えば、編み物や盆栽について》



「はぁ?」


「ん?」


「あ!い・いえ‥あの、編み物とか盆栽とか興味ある?」


「え゛‥その二択だったら‥編み物‥かな?あはは‥。昔、おばあちゃんが編み物してるの見てたことあるよ。翔くんは盆栽とか興味あるの?渋いねぇ~」


「ははは、最近少し興味が湧いてきて・て‥‥」



《良い感じに会話が弾んでいますね》

《次の話題を提供しますか?》



『No』で‥‥‥。



「あたし、ちょっとお花摘みに行ってくるね。ニヒッ☆」


「あ・い・いってらっしゃい(え?どこに?なんでお花??)」


そうだ、今のうちにAR機能をOFFにして‥彼女が本物かどうか確かめよう。


(ホントにそんなことしてもいいのかー?それは彼女に対する裏切り行為でもあるんだぞー)


な!?内なる自分が語り掛けてくる!?

しかし確かにそうかもしれない‥。もし彼女が容姿を偽っていたとしても、それは自分のためだけじゃなく、俺を喜ばせようと頑張ってくれているのかもしれない。その努力を俺は受け入れるべきなんだ!


(マジでそんなこと思ってんのか~?AR使ってんだとしたら100パー自分のためだろ。)


え‥そ・そうかな?

そうかもしれない‥。俺を喜ばせたところで、彼女には何のメリットもない‥。お金だってお小遣い程度しか持ってないし‥。


『それ、CGじゃね?』健太の声が頭の中にこだまする‥‥。


そうだ、俺は、彼女が嘘偽りなく天使として存在していることを証明して、玲奈と健太を見返してやりたいんだ!

‥見返す?なんで?‥‥あ゛ーーーーーー!もうなんでもいい!とにかく、


AR機能 OFF !



《只今障害が発生しております。AR機能をOFFにすることができません》



は?なんで??


AR機能 OFF !!



《只今障害が発生しております。AR機能をOFFにすることができません》



こんなことって、起こるもんなの?

今朝は普通にOFFに出来てたのに‥‥。


困惑しているところに、彼女が戻ってきた。


「ただいま~☆どうしたの?コワい顔になってるよ?」


「あ、いや、なんでもないんだ。ごめん。(‥花なんか持ってないじゃん‥摘んだ花はどうしたんだろ?)」


それから先は、どんな会話をしたのか覚えてはいない‥。





駅前───


醜態ばかり晒してしまった‥。もう彼女と会うことは無いかな‥。


「翔くん、今日は楽しかった。ありがとね☆」


「あ、ぼくのほうこそ、た・楽しかったよ」


「ウソ‥。翔くん、緊張しっぱなしで楽しめてなかったでしょ?それに、会話サポートのアプリ、使ってたよね(ニヤニヤ)」


「え!?(バレてた‥)」


「でも、そういう一生懸命な感じ、あたしは嫌いじゃないよ☆」


「え‥‥」


「『また』会いましょう♪これ、社交辞令じゃないから☆じゃ、またね~!」



頭の中は真っ白になって



彼女が改札口を通っていく姿を



ただ黙って見送っていた。



階段の手前で振り向いて大きく手を振る彼女に



俺は小さく手を振り返した。

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