ある喫茶店で

 彼に連れられてやってきたのはS駅近くの喫茶店だった。恐ろしく人気のない通りにあって、店内にも人っ子一人いなかった。

「このお店、私のお気に入りなんですよね、人がいなくて」

「はぁ…」

 イマイチ彼に対する疑念が解けない私は内心ビクビクしながら辺りを見回していた。いそいそとでてきた店員がコーヒーを運んでくると、彼はこう始めた。

「人を殺すのに一番安全な方法というのをご存知でしょうか?」

「は?」

 いきなり何を言い出すのだ。その裂けた笑顔で言うと洒落にならない。

「誰にも見られずに誰にも知られていない所で殺すのが一番です。つまり、事件が発覚しない方がいいわけです。それはそうだとお考えでしょう。事件が発覚しなければ警察も動かず、証拠を取られることもないわけですから、その殺人行為は行方不明という結果で終わってしまうわけです。」

「それはそうでしょうが、万が一遺体が発見されてしまったら……」

「そうです、そうです。殺人の時効が撤廃された現代に置いて、その不安を一生背負う羽目になるわけです。このことは、何れにしても逃れられない運命なのですが……」

「話が見えて来ないんですが……?」

「あぁ、また失礼しました。こういう語りのようなものに憧れていたんですが、いつまでもうまくできませんね……今回に犯人はこれの全くの逆をやったわけです。人に目撃させ、あまつさえ死体を早期に発見させる。これは大変にリスキーな行為です。しかし今回の犯人はそれをやってのけた上に、殆ど成功したわけです。殆ど、というのは殺人計画に予期せぬエラーが起こったのです。

 貴方の登場です」

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