Kという男について
合田という刑事とは結局ニ日ほど一緒に過ごす羽目になった。
ニ日ほどと書いたが、正直帰る時に事件が本当に解決したのかと疑ったのは嘘ではない。合田刑事が、「ではこれで……」とだけ言い残して帰ったからである。
彼とは取り留めもない会話しかしなかったが──明らかに彼が私を疑っていたのは目に見えていたこともある──あのKという異様な男について聞いたことがあった。
「あの人、僕もよく知らないんですよ、なんか部長も逆らえないっていうかあの人の言うがままなんです。普段はどうも何処かの交番に居着いているらしくて。昔先輩には、あの人はその交番の付属品みたいなものだから、と聞いたので交番に住んでるんじゃないですかね…?刑事かですって?まさか、手帳も何も見たことありませんよ。私も気になって名簿を盗み見たことがあるんですが、Kなんて名前は勿論ありませんよ。名前だって本名じゃないでしょうし」
こんな調子だから、結局謎の人物ということで終わってしまったのだ。
彼が帰った翌朝、新聞が届いたのを音で聞いてあの事件を真相が載っていることだろうと玄関まで歩いていくと、呼び鈴がなった。私を尋ねる人に心当たりが無かったのでチェーンを付けたまま鍵を開けた。ガチャリと鍵の音がした瞬間にドアがチェーンの限界まで開かれ、私は声も出ずに驚いて跳ね退いた。
まさか、あの犯人が?
警察は私を囮に使ったのか?
だとしたら出てくるのが遅くはないか?
だとすると事件解決は誤認逮捕……?
逃げなければ。
「すいません、驚かせちゃいました?」
声に聞き覚えがあったが、ドアから覗く姿に心当たりはない。
「Kです。僕、Kですよ。」
「あ…」
ニコリと笑うその顔の不気味さで理解した。
署で見たときはスーツを着て前髪を上げていたので分からなかった。目の前の彼は髪を下ろしており、服も私服のようだった。今時珍しく和服を着ているが、この男の体格には和服はあまり合わないようで、異質感が増していた。ただ、髪を下した彼には何か人を引き付ける何かがある。
「すいませんすいません……ここまでびっくりされると思わなかったものですから……」
人懐っこそうな声を出すが、声色は響くように暗い。
「で…?」
腰が抜けて動けない私はこう答えるので精一杯であった。
「あぁ、そうそう、事件が無事貴方のおかげで解決しましたのでそのご報告をと思いまして。貴方が居なければ事件は迷宮入り、オミヤイリというやつになっていたでしょうね。どうです?私の奢りでコーヒーでも如何でしょう?」
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