Kの取り調べ

 K、というのが彼の名前らしいが、まず自己紹介でイニシャルしか言わない人間がいるだろうか?今の私であれば聞き返すところだろうが、私はそれに対して、どうも、としか返すことが出来なかった。

 彼はまた裂けそうな笑顔に戻って私の向かいに腰を下ろした。彼のような体の人間向けには椅子が作られていないのか、多少窮屈そうに座って名刺を取り出すと、ぬっとこちらに近づけてきた。甚だ距離の近い男である。

「なに、獲って食ったりしませんよ。ここは警察、市民の味方ですから」

「はぁ、では………」

 私はそれから目の前の人外のような男の一挙手一投足にビクビクしながら、私の知っているすべてを話した。意外と彼は聞き上手なのか、スラスラと知っていることや、気づかなかったことを気付かされたりした。

「なるなどなるなど……ありがとうございます、大変参考になりました」

 彼は私の話を聞き終えると、ペコリと顔を下げた。

「あの……何点かお聞きしても?」

「今度は貴方が聞く番、というわけですか、お答えできることなら」

「まず、私が家に籠もっていたというのは何故わかったんですか?」

 彼のぎょっとするような見た目に追加して、見透かされているような最初のセリフが私の精神に追撃を仕掛けてきたのは間違いない。

 彼の出自や所属は置いておいてもこの疑問は解決すべきだ。

「あぁ、それなら簡単ですよ、どう見ても何日も風呂にも入っていないのにも関わらずに服や靴は小綺麗な物を身に着けていらっしゃる。そして、ここに来られたときの態度です。まるで『私はこの十日間も殺人鬼に怯えていたのに警察は何をしているのか』と聞こえてくるようでしたよ。怯えと……おっと失礼しました、恐怖と怒りですかね。あとはその刑事に話してる内容から察するに、というやつです」

「はぁ…なるなど、あと一点……彼らは何故こう…態度が…」

 彼以外の刑事に目線を走らせながら続けた。彼らは時が止まったように立ち尽くしていたのに今更気が付いた。

「それについては大変申し訳ありません。職業上、悪戯には嫌悪感を抱いてしまうものでして……あぁ、貴方が悪戯をしているとは言っていませんよ?そういう輩が沢山いるのです。今回の事件はただでさえ碌でも無い目撃者でしたので気が立ってるんですねきっと」

「ちょっと、私以外に目撃者が?」

 

「占いで殺人を見た、というんです」

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