異様な男
案内されたのは刑事課の一室らしい場所で、こんな場所で聞き取りをするものなのかと思うような雰囲気であった。
私は刑事がメモを取ろうとしたその時に、
「五月十三日に起きた橋爪京子さん殺人事件について」
そこまで言うと、目の前の刑事達は吹き出して笑いだした。
「五月十三日ですって?事件が起きたのは三日前の夜中ですよ?カレンダーを見間違えられてませんか?」
などと取り合う様子もない。
「だから!私は女が刺殺されるところを見たんだよ!五月十三日の夜中に!」
「そう言われましてもねぇ………橋爪さんの前日までの足取りはしっかりしとるわけですよ。だから五月二十日の証言と言ってもねぇ…」
「お、おたくの医者が間違えたんじゃないですか!?さ、最近見られていた橋爪さんは犯人が用意した影武者とかで!!」
「あなた、推理小説の読み過ぎではありませんか?死亡推定時刻はしっかりしてますよ。死後何年も経ってるわけじゃないんだから一週間のズレなんか、ありえません」
「じゃあアンタ達は私が見たのは嘘だと言うわけですか?」
「ですから、五月二十日のことでしたら証言としてお聞きすることも出来るわけですが………」
もういい、帰る、と席を立とうとしたその時に奥から、
「まあまあ、せっかく勇気を出して来られた方を邪険にすると信用に関わりますよ」
と部屋の隅から声がした。ガヤガヤとしていたその部屋もスッと静かになった。
声の主は奥の椅子に背中で座るようにしていたらしく、ズッと音を鳴らしながら椅子から滑るように離れてこちらへ歩いてきた。
その男は猫背を治すようにフラフラとこちらへ歩きながら、
「さぁ、お座りください、落ち着いてすべてお聞かせ願えますか?」と続けた。
彼がこちらに歩いてくるのに連れて異様なことに気がついた。遠近法が狂ったかのように背が高すぎるのである。屈強な刑事達を押しのけてこちらに来るのだが、周りの刑事のガタイの良さに比べると細長いというか恐ろしく縦に長いのだ。こちらに来るときには天井に頭が付いてしまうのではないかと思われたが、私の前に立った彼は、腰のところから折れて顔をいきなり近づけてきた。その時には私はヒッと声が出ていたのだろうが、彼は構うことなく、
「大変でしたでしょう、十日間も家に籠もっておられたんですから」とにこやかに笑った。
にこやかに、とは書いたが、一般的な笑顔とはかけ離れた表情で、彼の口は耳まで裂けそうなほど吊り上がっていて目も切れ長というには広すぎる白目を持っていた。黒目も異常なほど小さいような気もするが、顔全体のバランスが狂っている気がするのでよくわからない。髪は後ろに撫でつけているが、長めの毛が数束彼の顔に掛かっていた。
端的に書いてしまえば人間味のない人物である。
「こ、この方は?」
獲って食われるのではないかと思い、周りの刑事に助けを求めたつもりだったが、代わりにその男が答えた。
「私ですか?失礼しました。Kと申します」
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