二人で歩く道
告白された。
「ごめんなさい。」
そう言って、頭を下げた。
人と付き合った経験はある。
けれど、セックスはしたくなくて、いつも私から別れ話をする。
そうして、誰もが同じ言葉を投げつける、
「俺の事、好きなんでしょ?
だったら、触れ合いたいと思うのが、普通でしょ?」
その普通が、私には普通じゃない。
誰かと一緒に居たいとは、思う。
けれど、セックスをしたいとは思わない。
頭を下げたまま動かない私に、苛立った相手が肩を掴み、体を揺らしながら叫ぶ。
「可愛い顔してるからって、調子に乗るな。俺じゃあ、物足りないってか?!」
場所もわきまえず、夜の街で襲い始める取引先の顔見知り。
壁に体を押し付けられて、無理矢理にキスしてこようとするのを、必死に避けていた。
急に肩から手が離れたと思ったら、
「何すんだよ。」
「そういうところじゃないですか? 貴方が、受け入れられないのは。」
私の目の前には、大きな背中。
腕の隙間からは、道路に倒された人。
大きな背中の人は、振り返ると、
「怖かったですよね。 早く、ここから離れましょう。」
そう言って、項垂れた男を残し、私の手を握り歩き出した。
駅前にある広場に着くと、言葉もなく、二人でベンチに座った。
「あの、ありがとうございました。○○商事の方ですよね。」
「覚えていてくれたんですね。
いつも、美味しいコーヒーを出してくれて、ありがとうございます。」
優しい言葉と、暖かな微笑みに、耐えられなかった。
俯きながら、口に出してしまった。
「私、誰かと一緒に居たいとは思うんです。
でも、セックスをしたいとは、思わない。
興味も無いし、したいと思えない。
それでも、絆を作りたいと願っている。
勝手、ですよね。」
「じゃぁ、僕の勝手な願いも聞いて下さい。
僕は、誰かと結婚して、家庭を築きたい。
でも、家族は作れても、家庭は作れない。
……僕は、無精子症です。」
顔を上げると、涙で滲む瞳に見つめられ、涙を流して見つめ返した。
「俺は、あなたと話したい。これからも、会って貰えませんか。」
「話してくれて、ありがとう。
私達、欠点があって、夢があるんですね。
私も、あなたを知りたいです。」
二人、涙目のまま笑い合って、ゆっくりと手を握りしめた。
「私と、話してくれませんか。辛い事、楽しい事、苦しい事。」
「俺の事、知って欲しいです。あなたじゃなきゃ、駄目なんです。」
見つめる先には、不安そうな瞳。
でも、次の瞬間には微笑みあう。
私達には、私達の出会いがあって、これからがある。
握る力を、もっと強くすれば、握り返す力も強くなっていく。
「沢山、話しましょう。二人で、どんな道も歩いていきたい。」
お互いの心と体を、話し合って見つめていこう。
今、二人で歩く道を見つけたから。
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