二人は、今も
あいつは、気が付けば、俺の姉ちゃんと話していた。
いつもなら、割って入った。
姉ちゃんは、誰かに声を掛けられると、怯えるのが当たり前だったから。
人見知りなうえに、病気を抱えた姉が、楽しそうに話しているのが嬉しくて、
つい、見入ってしまう。
どんな時も、あいつの前だけで見せる姉ちゃんの笑顔は、可愛くて、綺麗だった。
なのに、あいつは急に姿を見せなくなった。
あいつが事故に遭って、死んだ事を知ったのは、随分経ってから。
姉ちゃんの口からだった。
「交通事故に遭って、亡くなったんだって。さっき、彼から聞いた。
早く言いたかったんだけど、言い出せなくて四十九日を過ぎたって。
今も一緒に、傍に居る。喜んじゃいけないのに、嬉しいの。」
姉ちゃんの瞳は、輝いていた。
はっきりと話しながら、体を小さく丸めて泣いている姉ちゃんを、俺は病気のせいだと思うより仕方なかった。
それから三か月、姉ちゃんは冬の寒い季節にも関わらず、家族が止めても毎日、
あいつがいる公園に向かい、誰かと話していた。
本当に、楽しそうで、綺麗だった。
白色の菊が波の様に配置された中央に、笑顔の遺影がある。
姉ちゃんが、死んだ。
自分のベッドの上、幸せそうな笑顔で呼吸を止めて、帰らぬ人となった。
あいつが、無理矢理連れていくことは無いだろう。
何故か、そう思った。二人で、旅立つことを決めたんだ。
焼香の為のワゴンが、目の前で止まる。
「二人で、行くの? 幸せに、絶対に。」
ただ、そう願った。
ワゴンを移動させた時、
『『ありがとう。』』
二人の声が、はっきりと聞こえた。
その瞬間、抑えられなくなった。
二人の死を、受け入れたくないのに、受け入れるしかない。
感情を、止められなかった。
馬鹿でかい体で、声を上げて、泣いた。
通夜だから、二人の為に起きていた。
でも、急に瞼が重くなっていく。
『ありがとう。』
声に懐かしさを感じて、顔を上げると、姉ちゃんとあいつが居た。
『なんだよ。面倒くせえな。ラブラブですって、見せつけに来たの?』
『バレた? 俺、お姉さんと一緒に行くね。』
『お前、姉ちゃんの事、泣かすなよ。こっちから、見張っているからな。』
『泣かせる訳、無いでしょう。やっと、傍に居られるんだから。』
『絶対だぞ。』
『うん、約束する。』
奴の隣、顔を真っ赤に染めて俯いている人。
『姉ちゃん、幸せ?』
顔を上げた姉ちゃんは、綺麗だった。
『幸せだよ。お父さんやお母さんに宜しく。』
『『ありがとう』』
二人笑顔で、俺に囁く。
二人が、手を繋ぎながら歩いていく。
姉ちゃんの、横顔。
最高の笑顔を見て、飛び起きた。
辺りは暗く、深夜という闇が続く時間。
後ろの親族達は、酒を飲み泣き、笑う。
俺は一人、遺影に向き合う。
あの二人の事だ、旅立つ前にあの公園で無駄話をしているだろう。
さっさと、天国に行ってくれよ?
あの二人、意外とダメダメなんだよ。
余計な心配が、俺の中に無まれた。
『『あ、そういえば、あれ、伝え忘れた!』』
俺の後ろで、二人の声が聞こえる。
いやいやながら、ゆっくりと振り向いた。
余計な心配が、今、目の前にあった。
「お前ら、さっさと成仏しろ!」
心の中で、思いっきり叫んだ。
『『本当に、ありがとう。』』
笑顔の二人が、ぼやけて消えた。
なのに、二人の笑い声が離れない。
多分、二人は今も、あの公園で話してる。
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