強くて、弱い人

今日もトイレに連れ込まれて、個室に入れられ、上からバケツの水を

浴びせられる。

「あんたみたいなブスは綺麗にしなきゃ。」

途端に、甲高い笑い声が幾つも響き渡る。

寒さに震えながら、耐えていた。

「今日も飽きずに、よくやるねぇ。」

途端に外が騒がしくなって、個室のドアが開いた。

私を見た瞬間、その子は、私を見てこう言った。

「うわ、めっちゃ、綺麗やん。あんた達なんかより、ずっと。」

「はぁ? 何言ってんの? こいつのどこが」

「あ? あんたより、何倍も綺麗だよ。ちゃんと目ついてんの?

 あんたらの腹黒さは、最悪だよ。人をいじめるしか能のない、バカ女。」

「な…。」

「あんた、人間として最低。」

見た目は、ギャル。自分とは、関わる事の無い人。

でも、とても暖かい人。

何度か、質問されて勉強を教えた。

「優しくて、綺麗で、私みたいな頭悪い奴にも、ちゃんと接してくれる。

 こんな素敵な子。他に居ない。

 あぁ、そうか。あんた、嫉妬してるんだ。

 可哀そうに。そうだよね。綺麗じゃないもんね。」

「うるさい!」

殴りかかろうとする相手に、彼女は怯まず平手打ちをかました。

嘘みたいに、呆気ない幕切れ。

首謀者は、崩れ落ちて泣き出した。

「あんたは、泣く事を許されない。この子は、今以上の事をされたんだから。

 ちゃんと、謝れ。」

「…。」

嘘みたいに号泣している首謀者に、彼女は叫んだ。

「被害者面するな! 謝れ!」

周りに居た取り巻きが、逃げていく。

「…ご、ごめんなさい。」

聞こえるか聞こえないかの声。

「もう、やるんじゃないよ。」

彼女が、私の手を握って歩き出す。

「あー。マジで怖かった。手汗やばっ!」

繋いだ手が、小刻みに震えている。

「どうして、助けてくれたの?」

「やっぱ、覚えてないの? あんたが、私を先に救ってくれたんだよ。」

「いつ?」

「小学生の時、私、兄貴のお下がりばっか着せられてさ、『男女』って笑われて。

 でも、あんたが『似合っているのに、なぜ笑うの?』って言ってくれた。

 その後、不思議な位何も言われなくなった。

 そして、すぐ引っ越したでしょ。お礼が言えなかったのが、心残りで。

 だから、今、最高に嬉しい。

 あの時、私を救ってくれて、ありがとう。」

握られた手が、更に強く握られる。

「ちなみに、私、あんたが好きだから。」

「ありがとう。私も、好きだよ。」

「本当の意味、分かってないでしょ。」

「ううん。分かってるよ。」

勉強を教えたり、好きな曲で盛り上がったり、見つめる先の笑顔がかわいいひと。

彼女の頬に手を添えて、軽くキスした。 

目の前の彼女の顔が、一気に真っ赤になる。

「ふふふ。かわいい。」

「もう! 早く、服乾かしに行くよ!」

早足に歩く、後姿。

金髪から、真っ赤な耳が覗いている。

いつの間にか、大切な人を見つけていた。

強くて、弱くて、かわいい。

私は、この人が、好きだ。

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