お揃いと呪い

 昼休みも間もなく終わる。

 冷たいものが飲みたくなって、共同のキッチンスペースに来た。

 小さなシンクの前では、綺麗に背中を丸めながら何かを洗う青年が一人。

「お疲れ様。」

「お疲れっす。」

 弁当箱を洗いに来ていた後輩が、今にも眠ってしまいそうな顔を向けた。

「ねぇ、それで午後からの仕事出来るの?」

「ん~、冷蔵庫の残り物弁当に詰め込んだら、思いのほか多かったっす。」

 いやはや、内勤の営業事務とはいえ、言葉遣いといい髪型といい、大丈夫なのか?

「それにしても、後ろ髪長いねぇ。よく、課長に怒られないね。

 何処のバンドマンですか?」

「今回は、マッシュウルフにしてみたっす。」

 と、肩に着く襟足の髪を撫でながら嬉しそうにしている。

 入社する前は、バンドデビューを目指していたらしいから、間違ってはいない。

 マッシュ…確かに全体のフォルムはキノコ。

「前髪ぱっつんが、今回のキモです。先輩と、お揃いっす。」

「はい? お揃い? いやいやいやいや、全然違うから。」

 切り揃えてはいる、でもぱっつんじゃない。

 急にお揃い発言されて、動揺してしまう。

 慌てる私を、また嬉しそうに眺める後輩。

 なんか、腹がたってきた。

「これから暑くなるってのに、その長さは無いでしょ。

 バリカン掛けてやりたいわぁ。」

「え、そんなん駄目っすよ。やるなら、先輩も一緒っす。

 俺とお揃いの『丸坊主』にしましょ。」

「いや、やらないし。それに、どんだけお揃いにしたいのよ。」

 心臓が、妙に煩い。

 かましてやろうと思ったのに、逆にかまされてしまった。

 くだらないお喋りをしている間に、休み時間が終わったとベルが告げている。

「ほら、仕事始めるよ。」

「は~い。」

 キノコ頭が、相変わらずにやけながら、気怠そうに後をついてくる。

 随分と、舐められたものだ。

 それでも可愛い後輩に、

「今日、帰り際に残業を頼まれてしまえ。」

 と、振り向きざまに呪いをかけた。

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