カップを洗う

 コーヒーは好きだ。

 でも、カップを洗うのは…。

 うん、当たり前に面倒くさい。

 こういうのって、自分でやればいい。

 そう、思いながら同僚のカップを洗う。

 『あれ、洗うのって意外と…。』

 心が落ち着くのと同時に、面倒くさい。

 溜息つきながら洗っていた自分の肩が、ぐんっと重くなる。


 「お、新人ちゃん。やってるねぇ?」

 両肩から何故か誰かの肘が突き出している。

 「あの、重いです。」

 「えらいな。誰にも言われてないだろ。」

 「あぁ、これは新人の仕事だって。暗黙の」

 「いや、お前は、言われなくてもやってる。

  すげえよ。」

 確かに、自分は、『やれ』と言われてない。

 けど、動ける人間がやればいいだけの事。

 俺の同期は、三人。

 何だかんだ忙しい。お互い様。

 なら、今は自分がやればいい。


 「なぁ。」

 「なんですか。」

 「お前が、淹れてくれると、美味いんよ。」

 「はぁ…。 ありがとうございます。」

 「コツ、教えてくれねえか。

  俺、マジでお前の淹れてくれるコーヒーとか、お茶とか好きなんよ。」

 「ありがとうございます。」

 どんな風に準備すればいいか、こっそり調べて、やって来た。

 気付いてくれた人が、居たんだ。

 嬉しいけど、敢えて、素っ気なく答える。


 「覚えられるんですか?」

 「うわ、そういわれると、自信無いわ。」

 「じゃぁ、今から教えますよ。」


 この人は、営業の人。

 調子が良くて、いつも、遅くまで頑張る。

 自分を、見てくれている人。

 

 「じゃぁ。まず…。」


 淹れ方を、本当に真面目に聞くとは、思ってなかった。

 自分のやり方で、伝えていく。

 コーヒーメーカーが、淹れ終わりを告げる。

 「お、これもいいな。」

 「好きですか?」

 「うん、お前、職種間違えただろ。

  すげえよ!」

 ぐしゃぐしゃと、頭を撫でられた。

 コーヒーが、もっと好きになりました。

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