ホンダイ
転校をするまでの期間1ヶ月。
みんなよりも1ヶ月長い夏休みだったと思う。
僕の中で、“開放されたな”みたいな。そんな感覚だった。
数日間は。
「ハジメ」で話していたように、僕は自分自身が理解できていなかったし、なんなら今でも理解ができていない。
つまり、何が無理で、何が大丈夫で、何がしたいのかも分からなくなっていた。
休みの期間が始まって、約2週間。
親に、“とりあえず車の免許くらいは取っておいたほうが良い“と言われ、免許を取りに行くことにした。
僕は、車があってちゃんと慣れたら交通費削減にもなるし、面白そう。という理由で、なんとなく親の言うことに賛成した。
現代。このご時世、この世界。
数え切れないほど車が走っているし、高速道路は何時間も渋滞になるほど車が並ぶ。
暴走族とか、改造車とか、最悪の言い方をすれば、学歴がそこまでないような不良のような子だって免許を取っている。
Youtubeを見ていれば、ヘルプマークを持っている人とか、精神疾患の人が車を運転している動画が流れてくることも多い。
僕の中では、免許が取れることは“当たり前のこと”だった。
多分、僕は本当に最低な人間なんだと思う。
僕は教習所を3日で辞めた。
正確には2週間くらいは居た。
1日目入校式みたいな日
教室に入って、教科書を貰って、先生が来て、知らない生徒が教室に来て、同い年くらいの人が10人くらい席に座った。
説明が始まってからすぐ、
誰かが質問して、先生が答えて。
また誰かが質問して、先生が答えて。が何度か繰り返される。
教室の中に居るという事実だけで吐き気と目眩がした。
僕はその時、自分の浮きを感じた。
お昼ご飯の時間が挟まり、午後は実技の受け方だったり、内容だったりが説明された。
僕の中では“受け方”が最大難関だったと思う。
まず、専用の機械から個人のファイルを受け取る。その機械にもいくつか手順があった。
先生が「このカードとファイルを使って、何をするとできるよ」
みたいな。多分簡単な説明。
僕は、そのやり方をその簡単な説明を1度されただけでは覚えることができなかった。
多分普通は覚えられるんだと思う。
次に、そのファイルを受付の人に持っていって話しかける。
僕の中では“話しかける”がハードモード。
その日の最初、受付の人はムラサキで、教室は分からないし、どうすれば良いのかもわからない。でも受付の人には確認も何もできなかった。
最後に、教官を探して同じ車に乗り、実技の授業を開始する。
車の実技だ。分かってはいた。重々承知だった。でも、できると思っていた。
今考えたら、何でできると思っていたのかは分からないけれど、その時は大丈夫だと、自分に言い聞かせていたのだと思う。
2日目実技の予行練習みたいなゲーム的なやつ。
授業は1人で受けられると聞いていた。機械と一緒に。みたいな。
その空間はなんとなく大丈夫だと思った。
3日目午前がビデオ視聴、午後が実技
午前の時点でギリギリだった。
授業中、真右席では、女の子同士が会話、真後ろ席では男の子同士が会話。目の前の席と真左席で会話。それに囲まれて僕は1人。
教室内で一番嫌いな構図。
周りは全員オレンジなのに、僕だけずっと黒色で、つまりこれは、教室に居る僕が悪いんだと飲み込んだ。
午後の授業は、最初からすぐに機械と対面した。
「これどうすればいいんですか?」
頭の中ではその言葉は簡単なのに、ギネスに登録されてそうなダンベルくらい重たかった。
その日僕はそこから記憶がない。いつの間にか家のベッドで寝ていた。
親には普通に帰ってきたよと言われて、未だにあの日のことはよく分かっていない。
授業を受けたのかも分からない。
僕はその日からもう免許は必要ないなと思った。
だって、あの空間はニジイロだから。
「外に出ない人も車の免許くらいは取っていたほうが良いよ。身分証明書だよ」
僕はこの言葉がすごく嫌い。
〇〇“くらい”ってなんだろう?
それはできるのが“当たり前”みたいな。僕は人間じゃないみたいな。
否定される定型文。
だから僕は、学校に行けてる人も、免許持ってる人も、外に出られる人も、全世界の人間すごいなって、人間っていいなって。改めてそう思った。
人間は本当にすごい生き物。
じゃあ僕はナニモノなんだろうな。
ナニモノ sHiRal @Ral_nui
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ナニモノの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
日記十年/Macheteman
★12 エッセイ・ノンフィクション 連載中 58話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます