IF① 第4話 改めて決意する
職場の男から絶大な人気がある
俺の胸の中にいる彼女と重ねた唇を離し、再び見つめ合う。間近で見る彼女は本当に可愛くて、俺が彼氏でいいのかとすら思ってしまう。
「ね、
「何かな?」
「足りないよ?」
彼女はそう言って目を閉じた。
「まったく、困った彼女だな」
俺はそう返して再び唇を重ねた。抱きしめる腕にも少しだけ力を込める。お互いのタイミングが合うまでそのまま時を過ごした。
「そろそろ帰ろうか」
「うん! 大満足! 仕事以外では私、彼女でいるからね!」
さっそく敬語をやめた彼女が、なんとも可愛らしい。
無事に加後さんと恋人同士になれたけど、職場恋愛になるので隠すつもりだ。ただ、報告をするべき人が二人いる。
そのために今、仕事終わりにカフェに来ている。先に俺と彼女が待っていると、あとの二人が姿を見せた。四人がけのテーブルに俺の左隣に彼女、正面に
「お待たせ桜場くん、話したいことがあるんだってね」
「加後ちゃんはもう来てたんだね」
「はい、桜場さんと一緒に来ました」
「先名さん、お時間いただいてありがとうございます。同島もありがとうな」
「そんなにかしこまらなくてもいいのよ。もっと気楽にね」
「そうだよ桜場。いつでも駆けつけるよ」
やっぱりこの二人も人として好きだ。同じ部署にこんないい先輩が二人もいたら、そりゃ彼女もいい子に育つよな。
「実はですね。俺と加後さん、付き合うことになりました」
俺がそう打ち明けると、二人は少し驚いているように俺には見えた。
「そうだったのね、おめでとう! きっかけは何だったのかしら?」
「加後さんから遊びに誘われまして。誘ってくれたことが嬉しかったんです。それで一緒にいると楽しくて、すごく癒されて。その時に気がついたんです。俺、この子のこと好きだって」
「私はその前から桜場さんが好きでした」
「そうなのね。私から見ても加後さん、彼女にしたいくらい可愛くていい子だと思うわよ。加後さん、いつもありがとうね」
「うぅ……先名さーん! 好きー!」
そういえば彼女、俺以外にも好きな人がいるんだった。目の前の二人だ。酒が無いこととテーブルに阻まれているおかげで、けしからんことにならずに済んでいる。
「同島、ごめんな。飲みに行くこと先延ばしにしてしまって」
「そんなのいいってー。当日ドタキャンしたの私だし、それに私がグチるだけなんだから、テキトーに流してもらっていいからね! それと私も彼女にしたいくらい加後ちゃん好きだから、これからもいっぱい加後ちゃんを喜ばせてあげてね! おめでとう!」
「うぅ……同島さーん! 好きー!」
彼女が二回も告った。本当にこの三人の関係って素晴らしいな。
その後も先名さんと同島から質問攻めにあい、雑談をして解散した。彼女を家まで送った車の中で、俺は彼女に声をかける。
「加後さん、また明日」
「むうぅぅ、加後さんじゃないよ。名前で呼んでくれなきゃヤダ」
助手席で口をとがらせる彼女。名前か。照れるけど、俺も呼びたいな。
「分かった、じゃあ——」
俺は初めて隣にいる彼女を下の名前で呼んだ。
「えへへ、私、男の人から名前で呼ばれたの初めて。嬉しいなっ!」
そう言って彼女は俺に顔を近づけ、俺の唇に自分の唇をそっと当てた。
「次はもっと一緒にいようね!」
そう言ってマンションへ入って行く彼女。
(もっと一緒に、だと……?)
そんなわけで二人への報告を終え、翌日からはまた仕事が始まる。今までと違うことは、好きな人が近くにいるということ。
当然というか、二人以外には隠し通すつもりだ。もし結婚ということになれば、そうはいかなくなるとは思うけど。
そして二年が経った。俺と彼女は今、一緒に住んでいる。間違えた。彼女じゃなくて妻だった。今も同じ職場で働いてるけど、部署が違うと案外知られないものだ。さすがに
女性三人は今も同じ部署で働いている。もうすぐ産休に入るから、先名さんと同島には迷惑をかけてしまうけど、二人とも快く受け入れてくれた。
俺達が住むマンションの部屋には写真が飾られている。それはウェディングフォトで、二人とも最高の笑顔で写っている。
「やっぱりこの写真を見る度に、初めて会った日のことを思い出すよなぁ」
「フフッ、そうだね! あの時は私が泥酔しちゃって、おんぶをお願いしたんだよね」
「そのお願いに変な応え方をした俺もおかしかったけど」
「むうぅぅ、私はおかしくないよー」
結婚しても相変わらずの可愛さに、俺はこの子とずっと暮らしたいと、改めて決意した。
その写真には、結婚式の衣装を身にまとって、最高の笑顔でお姫様抱っこをする俺と、最高の笑顔でお姫様抱っこをされる彼女が写っている。
【IF① END】
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【あとがき】
ここまで読んでくださりありがとうございます! もしかしたらあったかもしれないルートの一つが終わりました。本当に少しのタイミングや気持ちのズレで、変わることがあるんじゃないかなーと思います。
よかったと思ってもらえましたら、応援や評価などをいただけると喜びます。
すでにくださった方々、本当にありがとうございます! おかげでここまで続けられました。
この作品の初投稿から二ヶ月が経ちましたが、今も読んでくださる方がいることが嬉しいです。
ふと思うんです。あんなに大量の作品があって、新作も毎日のように出てるから、読むのも大変だよなあと。ジャンルもたくさん。
それなのに今もこの作品を読んでもらえていることが、本当にありがたいです。
次回からはもう一つのIFストーリーになります。需要はあるはず……!
引き続き楽しんでもらえれば嬉しいです。よろしくお願いします。
猫野 ジム
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