第54話 美人の先輩に伝えた

【スイーツ店での桜場と先名の会話から再開】


桜場さくらばくん、私たち三人の中で誰を彼女にしたいのか教えてもらえないかな?」


「彼女にしたい人ですか」


「答えにくい質問でごめんなさい。これは私のわがままな質問だから、答えなくてもいいのよ。でも今日はそれを聞きたくて来たから、やっぱり教えてほしいかな? ……ダメね、私。何を言っているのかしら……」


 俺は少しの間考えた。人生の決断とまではいかなくとも、大事な決断だ。誰かを選ぶということは誰かを選ばないということ。


「俺が彼女にしたいのは……同島どうじまです」


 俺がそう答えると先名さきなさんは、ゆっくりと少しの間だけ目を閉じてまた開くと、静かに口を開いた。


「そうよね、同島さん本当にいい子だから、私もおすすめするわよ。自慢の後輩だからね!」


「その……先名さん、すみません」


「あら? どうして桜場くんが謝るの?」


「えっとですね、いくら俺でも分かるというか、おそらく先名さんは俺を気に入ってくれているんじゃないかなと……」


「桜場くん」


「はい」


「お姉さんをからかったらダメよ」


「えっ!? いや、そんなつもりは無いんですけど」


 俺が慌てて否定すると先名さんは、とても優しく微笑んで俺に語りかける。


「私が桜場くんを気に入っているのはね、からかった時のリアクションが楽しいからよ」


「今ハッキリとからかった時って言いましたよね」


「フフッ、そんな勘違いをしちゃう桜場くんには、罰を与えないとね」


「いやいや、罰って! 俺何も悪いことしてないですよ。……一応聞きますけど、どんな罰ですか?」


「私にケーキをごちそうしてほしいな」


「喜んで!」


 そんな罰なら大歓迎だ。


「桜場くん」


「はい」


「そうやって傷つけないように、人の気持ちを真っ先に考えてくれるところが好きよ」


「えっ……と」


 あまりの不意打ちに俺は言葉が続かない。


「……人としてね!」


 先名さんはそう付け足して、悪戯いたずらな笑みを浮かべた。


 ここで同島と加後さんがケーキ選びから戻ってきた。


「お待たせしましたぁー! すっごいですよ! ケーキがたくさんありました!」


「加後ちゃん、そんなに食べられるの?」


「大丈夫ですってー! いざとなったら桜場さんに食べてもらいますから!」


「俺だって好きな種類を食べたいけどね!」


 二人が戻って来たので、今度は俺と先名さんがケーキ選びへと席を立つ。


「食べ切れない分は桜場くんが食べてくれるのよね?」


「先名さんは自重して下さい」


「やっぱり君、意地悪だな?」



 三人とのスイーツ店めぐりが終わった。二人を家まで送った頃には、深夜ではないものの外はすっかり暗くなっていた。そして最後の一人を家まで送る途中だ。


「桜場、今日はありがとう。楽しかったよ! 先名さんと加後ちゃんも楽しそうだったね!」


「そうだな! 俺も楽しかった。結局、加後さんに予定外のケーキを食べさせられたけど」


「あれぇー? 三食スイーツでもいいんじゃないのー?」


「さあ、なんのことやら」


 車内には俺と同島の二人きり。なので同島は助手席に座っている。


「ねえ、私と加後ちゃんが席を離れていた時、先名さんと何を話してたの?」


 運転中の俺に同島が聞いてきた。困ったな、どう答えるべきか。


「それに答える前にちょっと寄りたい場所があるんだけど、いい?」


「まだどこか行くの? 二人なのに? 桜場とならいっか」


 同島の了承を得たところで、俺は車を走らせる。そしてある場所へと到着した。


「桜場、ここって……」


 それは新入社員研修のメンバーでの親睦会の時に、同島と抜け出して行った公園だ。



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