第55話 告白

 二人きりの車内。同島どうじまを助手席に乗せて車を停めた場所。


桜場さくらば、ここって……」


 それは新入社員研修の担当メンバーでの親睦会の時に、途中で同島と抜け出して行った公園だ。駐車スペースに車を停め、公園内のベンチへと足を運ぶ。前に来た時も夜だったけど、夜の公園って日々の喧騒けんそうを忘れ、ちょっとした非日常を感じることができる。


「やっぱり夜の公園って落ち着くね」


 同島は前を向いてそう話す。俺の左に座っている同島の横顔は、いつもの明るく気さくな女の子ではなく、俺が好きなただ一人の女の子として、俺の視界を輝かせる。


「同島、親睦会の帰りにここに来た時にした会話覚えてるか?」


「桜場って意外と極たまにカッコいいことがあるなって思うようになったって言ったね」


「それは今も変わらない?」


「うーん、どうかな? 『極まれに』に変わったかも?」


「頻度下がってない?」


「冗談だってー、桜場はカッコいいよ!」


 同島は俺を見て笑顔でそう言ってくれた。


「あとは、桜場って私がしてほしいことや、かけてほしい言葉がある時に、ピッタリなことをしてくれるってことも言ったね」


「その言葉は正直めちゃくちゃ嬉しかった」


「だって本心だからね」


 そうだ、同島はあの時本心を伝えてくれた。それなら俺も本心を伝えるんだ。同島と同じくこの場所で。


「それにしても今日は楽しかったね!」


「ああ、そうだな」


「結局、加後かごちゃんが残したケーキを桜場が全部食べるハメになったんだよね! しかも同じのばっかり!」


「食べるハメにって、面白がってない?」


「えぇー、そんなことはあるよ」


「あるのかよ……」


 そして静かな時間が流れる。今だな……!


「なあ同島——」


「あっ、そうだ。先名さきなさんと加後ちゃんの家が分かったからって、勝手に押しかけたらダメだよ」


「そんなことするかっ!」


 再び静かな時間が流れる。次こそ。


「同島、聞いてくれるか」


「あっ、そういえば最後に行ったお店のお金、桜場が全部出してくれたんだよね。やっぱり悪いから私も出すよ。いくらだった?」


「え? そんなのいいよ。むしろいいお金の使い方だと思うから」


 おかしい。同島が不自然に俺の言葉をさえぎってくる。俺が言おうとしていることが分かっているのか? だとしたら、言わせないつもりなのでは?


「桜場、そろそろ帰ろっか!」



 どうやら俺は無害だと思われているらしい。



 同島は俺がこのまま何も言えず引き下がると思っているのだろう。けどな、俺だって男なんだ。いつまでも何もできないわけじゃない。


「同島!」


「はいっ!」


 俺が同島のほうを向いて少しだけ語気を強めて言うと、同島も俺に向き合ってくれた。


「俺は同島が好きだ! 俺と付き合って下さい」


 俺は同島の目を見て本音を伝えた。もう周りの音は聞こえない。今はただ同島の返事だけを待つ。少しだけ時が止まったかと思うほどの静かな時間が流れ、今にも泣きそうな同島の声が聞こえてきた。


「……わっ、私っ、ホントはね、先名さんと加後ちゃんも桜場をっ……好きなのかな? って思ってたんだっ……。もしっ……そうなら、今の関係が壊れるのがすっごく怖くって……」


 同島の震えた声に俺までもが泣きそうになってしまう。


「だからねっ……、告白、されないようにって、思ったのっ……! 桜場ならきっと何も言わないって……。でもねっ……桜場は告白してくれてっ……。私、嬉しいって思っちゃったっ……! 二人ともっ……ごめんね……!」


 少しでも触れれば大泣きしてしまいそうな同島だけど、ここまで来たんだ。返事を聞かないといけない。


「同島、返事を聞かせてくれないか」


「私もっ……、あなたが好きです」


 同島はそれだけ言うと、俺の胸に飛び込んできた。そのまましばらくして涙を拭いた同島が、俺の胸の中から俺を見上げる。


 そして、まるでこうなることが決まっていたかのように、俺達は唇を重ねた。


 ただグチを聞いてあげるだけだと思ってた女の子が、かけがえのない存在になった瞬間だった。


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