第50話 美人の先輩は話す

 今日は約束の日。四人でスイーツ店めぐりをすることになっている。俺以外の三人はすでに同島どうじまが住むマンションに集合しているらしい。


 来客用の駐車場に車を停めて、同島へ電話をかける。しばらくすると三人の姿が見え、俺の車に乗った。助手席に座ったのは加後かごさんだ。俺の真後ろに同島、その隣に先名さきなさんが座った。


 今日は暖かい。助手席に座る加後さんは白いロングシャツに黒のショートパンツ姿。加後さんは色白だ。そして座席に座っている。つまり、目のやり場に困る。花見の再来か? あの時もどこを見ればいいものか悩んだんだ。まったく、運転に集中させないつもりか。


「加後さん、そのファッションなんだけど」


「あっ、分かります? 今日初めて着る服なんですよー」


「いや分からん。加後さんが初めて着る服を俺が知ってたらおかしいでしょ。俺が言いたいのは、加後さんはそういったファッションが好みなんだねってこと」


 露出度が高いことを伝えたいけど、さすがに遠回しすぎたか?


「もしかして桜場さくらばさん、ずっと私のこと見てました?」


「ずっとではないな」


「見てはいたんですね。もー、桜場さんは困った人ですねー。嬉しいじゃないですかー!」


「桜場」


 後ろから同島の声が聞こえる。


「どうした同島」


「出発」


 怖っ! 表情は見えないけど、『怖い同島』になっていることは間違いない。


 全員がシートベルトをつける。ふと加後さんを見ると、ベルトが加後さんの膨らみをさらに目立たせていた。もう助手席は見ないことにしよう。


 思い返してみれば、俺の車にこんなにも人が乗るのは初めてかもしれない。しかも全員が可愛い女性だ。まさにハーレムと言えるだろう。


 これが物語なら、ずっとこのままの関係性でストーリーなど進まなくてもいいのかもしれない。でもこれは現実。俺だっていつまでもこのままでいいとは思っていない。どこかで決断をしなければ。


 しばらく車を走らせ、あらかじめ目星をつけておいた店を順番に回っていく。ケーキにパフェ、和菓子。甘いものは別腹というが、どうやら本当らしい。


 そしていちごショートケーキに乗っている、いちごをどのタイミングで食べるかということでも、個人の考えが違っていて面白かった。


 もうすぐ日が落ち始める時刻、最後の店へとやってきて、四人がけのテーブル席へ座る。

 本当に今日一日、ずっとスイーツを食べて過ごしたんだ。四人もいるので、ちょっとしたお茶会感覚でかなり楽しめた。


「同島さん、あっちにもいろんなケーキが並んでますよ! 見に行きませんか?」


「いいね、行こうか。先名さんと桜場はどうしますか?」


「私はあとで行くわ。先に加後さんと楽しんで来てね」


「先名さんが一人になるから、俺もあとで行くことにする」


「そっか。なら私は加後ちゃんと行ってくるね」


 そして同島と加後さんが席を立った。テーブルをはさんで俺と先名さんは対面して座っている。


「私が一人になるから……か。桜場くんは私が一人で平気だと思う?」


「えっ、急にどうしました? そうですね、難しい質問ですけど、なんというか先名さんは何でも一人でできそうというか、俺からすれば頼れるお姉さんという感じです」


「そう……。桜場くんから見て私はそういうふうに見えてるのね」


 そう言った先名さんは、またはかなげな雰囲気をまとっている。


「桜場くん、私はそんな強くないのよ。とっても寂しがり屋なの」


「そうなんですか? そうは見えないんですけどね」


「それはそう見えないようにしてるだけなの。同島さんに無理を言って、今日参加させてもらったのには理由があってね」


「スイーツが好きだから、だけじゃないということでしょうか?」


「そうね。いつまでもこのままでいいのかなって」


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