第49話 先輩が同期にお願いした

 先名さきなさんのはかなげな雰囲気。今までのことから、てっきりからかわれるものだと思っていたけど、初めて見た先名さんの姿だった。


加後かごさんはどんな様子だったの?」


「加後ちゃんはですね、ちょっと泣いてたかも?」


「そうなのね。確かに久しぶりに理不尽なキツいお客様に当たってしまったものね」


「あ、えっと、それも確かにそうかもしれないんですけど、理由は別にあってですね——」


 そして同島どうじまはいきさつを先名さんに説明した。


 加後さんが口に出した思い・大好きな同島を試すようなことをしてしまったこと・おそらくそれで自己嫌悪に陥ったであろうこと。


 同島はそれらを包み隠さず先名さんに話した。


「そう……きっと加後さんもいろんな思いを抱えていたのね。加後さん、可愛いわね」


 そう言って、自分のひざ枕で眠っている加後さんの頭を撫でた先名さん。きっと先名さんの中で加後さんは、ただの後輩ではなくなっているのだろう。いわば妹のような。


「えへへぇ……先名しゃんさんしゅき好きー」


 撫でられたのを知ってか知らずか、そんな寝言を言った。同島の家に泊まった時は、「もう食べられましぇーんせーん」だったのに。


「それで来週に三人でスイーツ店めぐりに行くということが決まったのね」


「私は桜場さくらばと二人で行ってきたら? って言ったんです。もとから出かける約束をしてたみたいですから。でも加後ちゃんから三人で行きましょうって言ってくれて」


「その時の加後さんの気持ち、私も分かっちゃうかな」


「えっ? 先名さんが加後ちゃんの気持ちをですか?」


「きっと加後さんは、桜場くんが律儀に約束を守ると考えていたんじゃないかしら」


 まるで俺の考え方が先名さんに筒抜けになっているみたいだ。確かに俺は一度した約束は守ろうと考えている。


「ねえ同島さん、そのスイーツ店めぐりなんだけど、私も一緒に行っていいかしら?」


「えっ!? 先名さんもスイーツ大好きなんですか?」


「もちろん! やっぱりケーキならいちごショートかしらね。フルーツパフェもいいわね」


「私、知りませんでした。そういえば桜場もスイーツ大好きなんですよ! 私それを聞いて本当にびっくりしちゃって」


「同島、今は男だからとか女だからとかの時代じゃないんだぞ。男だって三食スイーツでも余裕だし、体重やカロリーだって気にする」


「へぇー、そんなにスイーツばかり食べてると太るよ?」


「大丈夫だ。ちゃんと筋トレして有酸素運動もしてるから。同島、知ってるか? 体型維持のためには、摂取カロリーを消費カロリーよりも少なく抑えることが効果的なんだ。それには筋肉を増やして太りにくい体づくりをすることが重要でだな——」


「はい、もう大丈夫でーす」


「なんで!? けっこう大事な話だと思うんだが」


「長くなりそう」


「ズバッと斬るのやめてもらえませんかね」


「フフッ、同島さんと桜場くん、本当に楽しいわよね。ずっと眺めていたいくらい」


「同島が変なこと言うからですよ」


「桜場が変なこと言うからですよ」


 俺と同島が綺麗にハモッたところで今日は解散ということになった。


「先名さん、本当に私も車に乗せてもらっていいんですか?」


「もちろんよ。悪いけど加後さん、起きて」


「うーん、先名しゃんさん? 帰るんれふですか? ……歩けましぇんせん


 先名さんと同島が二人同時に俺を見た。言いたいことは分かる。


 そして俺は先名さんと同島の公認お姫様抱っこで、加後さんを先名さんの車まで連れて行ったのだった。俺は酒は飲んでないので自分の車で帰りました。



 

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