第48話 先輩と後輩と同期がそろった

 同島どうじまの話では、もうすぐ誰かがここに到着するそうだ。そんなの一人しかいない。友岡ともおか……ではなく、先名さきなさんで間違いないだろう。


「先名さんだな。同島が呼んだのか?」


「ううん、私じゃないよ。先名さんから連絡があって、加後ちゃんが今日落ち込んでたから、もしかして私に連絡があったんじゃないかって」


「そうか。先名さんはみんなをよく見てるんだな。さすがだ」


「それで加後ちゃんから飲みに誘われたことを話したら、先名さんも来てくれるってことになったんだよ」


「加後さんは先名さんのこと大好きだからな。同島だけに話したのは、リーダーでもある先名さんに心配かけたくなかったからなんだろう」


 待てよ? 酒・加後さん・先名さん。……うっ、頭痛が。三種の神器がそろってしまう! いや、加後さんが酔ってなければいいんだ。


「加後さん、そろそろお酒ストップしない?」


「えぇー、桜場さくらばしゃんさん、なんれふですかー?」


(早すぎじゃね?)


 そんなに長く同島と話してたっけ? 加後さん、どれだけ飲むの。いずれにしろ、けしからんことになるんだろうな。


 ここで個室の戸がスライドされ、紺色のパンツスーツ姿の先名さんが姿を見せた。


「遅れてごめんなさい。同島さん、加後さんは大丈夫?」


「来てくれてありがとうございます。はい、加後ちゃんの言いたいことは全部言ったようです」


「わーい、先名しゃんさんしゅき好きー」


 加後さんはそう言うと、部屋に入ったばかりでまだ立ったままの先名さんに抱きついた。加後さんの顔がちょうど先名さんの胸あたりにきている。


「やっぱり先名しゃんさん、フカフカで気持ちいいー」


「んんっ……! もう! 加後さん、元気そうでよかった! えいっ!」


「あひゃあっ!」


 今俺はスタンディングけしからんを見せられている。ほんと何やってんスか。


「同島、やめさせてくれないか」


「先名さんと加後ちゃん、ホントいつからあんなに大きく……。私もまだ成長途中だよね……?」


 そう言いながら自分の胸に手を当てる同島。三人そろうとこれだもの。話進まねー。


 その後なんとか加後さんを落ち着かせ、四人になったので二人ずつに分かれて席に着いた。俺の左に同島、俺から見て対面に加後さん、その左に先名さんだけど、加後さんは先名さんのひざ枕で眠りました。


「同島さんは分かるけど、桜場くんも加後さんのために来てくれたの?」


「はい。俺にも加後さんから連絡がありまして」


「今日はお休みだから、桜場くんにも予定があったんじゃない?」


 さすがにこれはただの気遣いの質問だと思うけど、俺が同島を見ると小さくうなずいたので、正直に伝えることにした。


「実は今日は同島と一緒に過ごしてました」


「同島さんとの約束をちゃんと守ったのね」


「はい。その途中で加後さんから同島に連絡があったんです」


「そういうことだったのね。同島さんは桜場くんと過ごしてどうだった?」


「えっ? それはもちろん楽しかったですけど、どういう意味ですか?」


「ごめんなさい、おかしな質問だったわよね。完全に私が個人的に聞きたかっただけなの」


 そう言った先名さんの声が、だんだんと小さくなっていったような気がした。


「うん、そうね! やっぱり桜場くんと同島さんは相性がいいんじゃないかしら。お似合いよ」


「桜場とお似合いって、先名さん、からかわないでくださいよー。加後ちゃんにも同じこと言われたんですから」


「そう。加後さんもそう言ったのね。加後さんも私と同じだったのかしらね……」


 やっぱり今日の先名さんはいつもと違って、どこかはかなげだ。先名さんにしか出せないであろう雰囲気というものがあるが、それは色っぽくて甘いものだけじゃないみたいだ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る