第51話 美人の先輩は決断する

 同島どうじま加後かごさんが席をはずしている間に先名さきなさんが口に出した言葉。


桜場さくらばくん、私はそんな強くないのよ。とっても寂しがり屋なの」


 その言葉の通り、それこそが本当の先名さんなのではないかと、最近の俺は考えている。俺と同島が一緒にいるところを見ている時の先名さんは、どこかはかなげに見えるからだ。


「いつまでもこのままでいいのかなって」


 先名さんはそんなセリフも口に出した。それについては俺も考えていたことだった。


 俺だって彼女がほしい。でも、恋人というものは基本的に一人だけだ。最近のラブコメだと恋人公認で二股、あるいはそれ以上だったりするが、あれは主人公が本当に誠実で不快感が無く、全員に等しく愛情を注いでいるからこそ成り立つ話。


 確かに俺は三人全員が気になっている。そしてありがたいことに、女性三人も俺を気に入ってくれているみたいだ。

 でも現実でそんなことをすれば、ただの三股男になってしまう。本当に誠実であるためには、そろそろ一人に決めてしまったほうがいいのだろう。


「桜場くん、お花見の時に二人きりでお話したことを覚えてる?」


「もちろんです。自販機まで水を買いに行った時ですよね」


「あの時、私たち三人の中で誰が一番タイプなのって私が聞いた時、桜場くんは私って言ってくれたわよね」


「覚えてます。それは今も変わってませんよ」


「嬉しい……! まだそう言ってくれるのね。それに『好き』って言ってくれたことも覚えているかしら?」


「もちろんですよ。『人としても女性としても先名さんが好きです』って言いました。でも先名さんに華麗にかわされましたけどね。今だから言いますけど、あの時本気で先名さんとお付き合いしたいと思いました」


「本気だったのね、ありがとう。それならもしもあの時、私も本気だったらどうなっていたのかしらね」


「俺からデートに誘って何回か会って、俺から告白して、先名さんがOKしてくれて、付き合っていたと思います」


「私さえその気だったなら、きっと今頃は恋人同士ね。恋はタイミングっていうけど、本当にその通りよね。今になって桜場くんが本気だったって知るなんて……」


「冗談だと思ってたんですか?」


「だって桜場くんのこと、他人に興味が無い人なのかなって思ってたから。初めて会った日、私が桜場くんに何を聞いても『無い』の一点張りだったじゃない」


 そういえばあの時、無個性だと呆れられたんだった。


「今まで私が会ってきた男性はね、なんとか私の興味を引こうといろいろお話してきてくれたけど、桜場くんはそんな素振りを全く見せなかったの。だから今度は私が桜場くんのことが気になるようになってしまって」


 こんな美人を目の前にすると、なんとかしてお近づきになろうとするのが男というものだろう。今までがそうだったが故に、先名さんからすると逆に俺みたいなのは印象深かったということか。


「一度桜場くんと二人で出かけたいなと思ってランチに誘ったけど、タイミングが合わなくて、後日になったのよね」


 確か加後さんと先名さんから同時に誘われて、先約の加後さんを優先したんだっけ。


「その後で同島さんと食事に行ったんだけど、そこで私は応援すると決めたの」


 俺と加後さんが一緒に夕食に行って、コソコソした時のことで間違いないだろう。


「でもダメね。私、思ったよりもわがままみたい。桜場くん、私が同島さんに無理を言って今日ここに来た理由を話すわね」


 先名さんはそう言うと、さらに真剣な表情で俺を見つめてきた。


「桜場くん、私たち三人の中で誰を彼女にしたいのか教えてもらえないかな?」


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