第45話 後輩が聞いてくる
「あれ? お二人は一緒に来たんですか?」
俺達が車から降りたのを見て、店の外で待っていた加後さんにそう聞かれた。
「途中で同島のマンションに寄って、乗せて来たんだよ。通り道だからね」
「そうだったんですね! お二人とも、急なお願いをしてごめんなさい。そして来てくれてありがとうございます!」
「気にしなくていいよ。加後ちゃんの気持ちすごく分かるからね」
「わぁ、やっぱり同島さん好き! それにしても同島さん、今日はすごい格好してますね。おヘソ見えてますよ」
「えっ? あ、うんそうだね。たまには違うファッションもいいかなって思ったんだよ」
「まるでデートみたいです」
もしかして加後さん全部分かってる? 普通に考えると、そんなことはありえないはず。今日は仕事だったそうだし。
「そうだよ。私は加後ちゃんとデートをしに来たんだよ」
同島は冷静に切り返す。
「同島さんとデート嬉しいなっ!
矛先が俺に向いた。揺さぶりをかけられているのだろうか?
「用事は日中に終わったんだ。それよりもごめん、加後さんからの誘いを断ってしまって。断っておきながらその日の夜に来るって、意味分からん行動だよね」
「気にしないでください! 今こうして来てくれただけで嬉しいですから!」
加後さんは笑顔で言ってくれた。誘いを断られるって結構キツいことなのに、責めるそぶりは無い。俺を後ろめたい気持ちにさせないための配慮なのだろう。そういったことができる人は、男女関係なく好きだ。
「さあ、入りましょうー!」
加後さんはそう言って、人差し指を前に向けて入り口へと進んで行った。
俺も進もうとしたが、同島はその場から動かない。加後さんはもう店に入ったようだ。
「ねえ桜場、今日って加後ちゃんから誘われてたの?」
「この前職場の廊下で偶然会った時に、そういう流れになった。前から漠然と約束はしていたんだ」
「どうして断ったの?」
「俺が同島と出かけたかったから」
「それって私を優先してくれたってこと?」
「その通りだ。加後さんには申し訳ないけど、次の機会にさせてもらった。それより早く行かないと加後さんを待たせるぞ」
俺が入り口に進むと、右腕に何かが当たる感触があった。見ると同島が腕を組んできていた。
「どうした? 店に入るだけじゃないか」
「私がこうしたくなったの! それよりも加後ちゃんとの約束も守ってあげてね」
俺と同島は店の入り口までの短すぎる距離を、腕を組んで歩いた。
居酒屋ではあるけど、宴会など大人数で騒ぐような雰囲気ではなく、掘りごたつ式の個室で、ゆっくりと語らいたくなるような居心地の良さそうな店だ。
加後さんが真っ先に下座へと座る。その隣に同島。俺はその対面に座ったので、左に同島、右に加後さんと向かい合う形だ。
俺はそんなことは気にしないけど、加後さんはこういうところでしっかりしている。
……ん? ここって居酒屋だよな? 酒・加後さん。……うっ、頭痛が。『泥酔』という答えしか出てこない。
乾杯を済ませると、加後さんが本題を話し始めた。今日の仕事であった出来事についてだ。グチで済ませてしまうには、かわいそうな話だった。俺はますます加後さんと同島を尊敬することになった。
加後さんは言いたいことを言い終わったのか、話題は変わって雑談になる。そして話が一区切りしたところで、加後さんが話題を変えた。
「同島さん、今日って何して過ごしましたか?」
まさかこっちが本題なのか? 加後さん、もしかして俺と同島のこと気がついている?
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