第43話 同期が隣にいる

 俺の車の助手席には同島どうじまが座っている。薄い青のデニムパンツに、クロップド丈の白インナーに薄いピンクのシャツという服装。そのため同島の体勢によっては、白い肌とヘソのあたりが見え隠れする。


「同島、そのファッションなんだけど」


「えっ!? 変かな?」


 同島が下を向いて自分の着こなしを確認しながら聞いてきた。


「いや、似合ってて可愛い」


「あっ、ありがとう……」


 下を向いたまま同島がお礼を言った。そして二人とも無言。


「気合いが入ってるのが分かってちょっと恥ずかしいかな……」


「確か花見の時はグレーのパーカーだったよな」


 俺がそう言うとやっと同島が俺のほうを見た。


「あれはお花見だから動きやすい服装を選んだだけだよ。女の子っぽくはなかったかもしれないね」


「あれはあれで似合ってると思ったけどな」


「ホントかなぁ? それならその時に言ってほしかったなー」


「あの時は言わなくてもいいだろと思ったんだ」


「ならさっき褒めてくれたのは?」


「言わずにはいられなかった」


 再び無言。見つめ合う俺と同島。なんだかデートの終わりのような雰囲気だけど、なんとまだ出発すらしていない。


「……そろそろ出発するか」


「そっ、そうだね」


 アクセルを踏んだ俺はマンションの敷地を出た。車内のBGMは同島セレクションだ。主に去年から今年にかけてのヒット曲が多い。俺の好きな曲も含まれていて、こんなとこでも同島と感覚が近いのかと認識できる。


 しばらくすると海沿いの道に出た。同島は海を眺めながら「わぁー」と、嬉しそうにはしゃぐ。


 今までの二人飲みから、半ギレで仕事のグチを言う姿の印象が強かったけど、本当の同島は無邪気で素直なんだ。


 その後はドライブ、スイーツ店めぐりに映画と、これといって特別なことはしていない。

 ただ俺が無類のスイーツ好きだと分かって同島が派手に驚いてくれたり、同島は恋愛映画をよく見るんだと俺が知ったり、お互いのことを知るという、デートの意味を果たせていたんじゃないかと思う。


 日が落ち始める時刻になり、夕食を一緒にとるため、さらに車を走らせて片側二車線の国道を行く。


桜場さくらば、今日はありがとうね。楽しかったよ」


 信号待ちの車内で同島がお礼を言った。


「こちらこそありがとう。でもまだ終わってないからな」


「これから食事だよね? 飲むの?」


「いつもと違って今日は車だから、それは無理だなあ」


「あっ、そっか。それなら私も今日はやめとこうかな」


「別に遠慮しなくてもいいのに。車だから同島を家まで送ることだってできるし、部屋まで連れて行くことだってできる」


「どうやって部屋まで連れて行ってくれるの?」


「肩を貸すから安心してくれていい」


「私はお姫様抱っこじゃないんだ?」


 同島から意外な言葉が発せられた。もしかして花見の日に加後かごさんにしたことをずっと覚えてたのだろうか。


「もしかして俺が加後さんにしたこと覚えてる?」


 同島は黙ったままだ。これは肯定と受け取るべきか。


「あれは小柄な加後さんだからできたんであって、同島は加後さんより背が高いから、うまくできそうにないな」


 ただ上半身の一部分については圧倒的に加後さんのほうが大きい。先名さきなさんに匹敵するほどに。


 でもそれを口に出すと、おそらく俺は同島から本気ビンタをくらってしまう。大きいほうが偉いだなんて、そんなことはないのに。


「ねえ桜場、ホントにそれだけ?」


 俺が『怖い同島』が覚醒するんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていると、ふと音楽が聞こえてきた。


「私のスマホからだ。電話がかかってきたみたい。ごめん、ちょっと出るね」


 どうやら同島のスマホかららしい。同島がそう言って画面を確認すると、脅威の一言が発せられた。


「あ、加後ちゃんからだ」

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