第41話 同期に初めて電話をかけた

 俺は今週末に一緒に出かけるという、加後かごさんからの誘いを断った。その理由は俺から同島どうじまを遊びに誘うため。

 うまくいく確証は無いけど、きっと同島ならOKしてくれるだろうという確信はあった。


 仕事が終わり帰宅した後、俺が唯一作ることができる料理であるカップラーメンを食べていると、ふと同島が作ってくれたカレーの味を思い出した。


 そんなはずはないんだけど、まるで俺の好みを知っているかのような、絶妙な辛さ。俺はあの時に初めて同島が作った料理を食べた。


 そして掃除が行き届いていて綺麗な部屋。俺にしれっと男物の服を渡して、防犯のために持っていると慌てて説明する同島。


 俺の中ではどちらかというと大雑把な印象があった同島が、あの時はまた違った一面を見せてくれて、俺は同島のことをまだまだ知らないんだなと思ったんだ。


 俺は同島にメッセージを送るため、あのアプリでの同島とのやり取りの履歴を見て愕然とした。


桜場さくらば、今週末飲みに行くよ』


『了解』


 その繰り返しだった。コミュニケーション不足。これでよく今まで愛想を尽かされなかったもんだ。

 ちなみに加後さんとのやり取りはというと、今日職場の廊下で偶然会った時にした時のままだ。つまり俺の既読スルーの連続。


 やっぱりメッセージよりも電話でと思った俺は、スマホを持ち同島へ電話をかけたが、コール音が続くだけだった。そして電話をあきらめメッセージを送ろうと決めた次のコール音が途切れた。


「もっ……もしもし桜場? 珍しいね。ていうか初めてじゃない?」


 同島が電話に出たからだ。実は同島に電話をかけるのは初めてだった。


「いったいどうしたの? 仕事辞めたくなったの?」


「いきなりそのリアクションは俺がかわいそうじゃない? 俺思い詰めてるように見える?」


「えー、だって桜場って用事が無いと電話したり、メッセージを送ったりしないタイプじゃない」


「確かにそれは当たってるけど! それに用ならちゃんとあるから」


「へぇー、それって私にってことだよね?」


「もちろん」


「だったら聞いてあげよう」


「えらく上から目線だな」


 同島の声からは、なんだか楽しそうな印象を受ける。文字だけのメッセージとは違って、電話だと声は聞こえるから、相手は今こんな表情で俺と話しているんだろうと、想像がふくらみやすい。


「俺から飲みに行く約束をしたけど、延期になってるだろ? 今週末はどうかなって」


「今週末ね。いいけど私は今はストレスあまり溜まってないよ」


「それでいいって。むしろ毎回ストレスフルチャージで来るのがおかしいだけだから」


「わかった。じゃあ週末の夜、空けておくね」


「あー、それなんだけど、飲みもいいけどたまには別のことするのもいいかなって」


「別のこと? いいけど夜ってなるとけっこう限られてくるかなぁ」


「夜じゃなければ大丈夫だろ」


「うーん、昼飲みってこと? 言ってることがよくわかんないよ」


「一日一緒にいようと言ってる」


「えっ、それって……」


「俺は夜だなんて言ってない」


「私と?」


「ここまで言って同島のことじゃなかったら、俺はもう会話してはいけないレベルでおかしいと思う」


「もう! それならそうとハッキリ言ってよね」


「俺は同島と一日中デートがしたい」


「ホントにハッキリ言ってどうするの! もう! まったくしょうがないんだから」


 ハッキリ言ったのに怒られた。ちょっとめんどくさい同島も、らしいなと思う。


「それで返事を聞きたいんだけど」


「断るわけないじゃない!」


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