第34話 同期が可愛かった

 親睦会で同島どうじまが男二人組からアプローチを受けた。すると同島が俺のシャツの左袖をくいっと引っ張ったので、俺はそれを『何とかして』のサインと受け止め、『二人で抜け出さないか?』とメッセージを送った。


 この二人組も悪い人達ではないのかもしれないが、同島が嫌がっている以上、俺がアプローチを阻止してもいいんじゃないだろうか。


 そもそも同島へのアプローチを防ぐのが目的なので、今抜け出さないと意味が無いため、二次会のタイミングまでは待っていられない。


「みんなごめんなさい、家の急用で帰らないといけなくなっちゃった」


 スマホで俺のメッセージを見たであろう同島は、そう言って友岡に一人分の金額を渡し、帰る準備を始めた。


「そうですか、急用なら仕方ないですね」


「同島さんと話せて良かったです」


 二人組はそう言うと同島を見送った。テーブルに残されたのは、俺・友岡ともおか・二人組の四人。一瞬にして華が消えた。しかも俺と友岡も二人組とはほぼ初対面。


 その一方もう一つのテーブルは男一人に女性四人と、関係性にもよるけどハーレムとも地獄ともとれる状況になっていた。俺ならどう思うか? もちろん地獄です。


「じゃあ俺達はそろそろ元のテーブルに戻るから」


 分かりやすい二人組はタメ口でそう言うと、もう一つのテーブルへ戻って行った。まあそうするよな。俺と友岡にはタメ口なのも、まあいいか。


 テーブルには俺と友岡の二人だけ。その時、俺のスマホが震えた。画面を見ると同島からのメッセージが届いていた。


『近くのコンビニで待ってるからね』


 それを見た俺は友岡に断りを入れるため話しかけた。


「同島が言ってた急用ってのは、俺が抜け出そうと言ったからなんだ。だから俺も抜けようと思ってる。それで本当に悪いけど、フォローしておいてくれないか」


「俺はあえて黙って見送ったけど、そういうことだったんだな。分かった! 残りのメンバーには俺から上手いこと言っておく」


「ありがとう。今度メシでもおごる」


「そんなのいいって。それより気づいてるか? 桜場さくらばがなぜあの二人組を阻止したくなったのかということに」


 友岡に言われてやっぱりそうなのかと思ったけど、同島が他の男と話しているところを間近で見ると、焦りのような感情が湧き上がってきた。これは俺も少なからず同島を意識しているということなのだろう。


 加後かごさんと食事に行った日、同島と先名さきなさんとの話を聞いて意識が変わったのは、どうやら同島だけではなかったらしい。


「そうだな、そのくらいは俺でも分かるよ。ただ、今はまだ好きかどうかと聞かれると」


「分かってるって。だからみんな二人で会うんじゃないか。きちんと恋人ができるまでは、いろんな人と会ってみることは悪いことじゃないと俺は思うぞ。時間は有限だからな。ただ、思わせぶりとか不誠実にならないように、気をつける必要はあるけどな」


 さすがイケメン友岡。俺が言いたいことを的確に言ってくれる。見た目以外もイケメンだな。


 俺も友岡に自分の分の代金を手渡して、友岡を一人残して店を出た。友岡なら一人でいてもぼっちとは思われないだろう。なんだかズルい。


 それから近くのコンビニへ行き外から店内を覗くと、中に同島が居た。同島は俺に気がつくと小さく手を振ってくれた。ミーティングの時は小さく拍手だったけど、同島の仕草がなんだか可愛いなと思うことが増えた。


 俺も店内に入り同島と合流する。


「ホントにびっくりしたよ。まさか桜場があんなメッセージを送ってくるなんて」


「だって同島があんなことするから」


「えぇー、私のせい?」


「いや違う。俺がそうしたいと思ったから」


「ホントどういうつもりで言ってるんだろうなぁ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る