第35話 同期と二人きりになった
親睦会を
「私、二人で歩きたいな」
「歩く? それだけでいいのか?」
「私、歩くの好きなんだよ」
「俺はいいけど、歩くだけなんて楽しい?」
「もう、わかってないなぁ。何をするかじゃなくて、誰と過ごすかが大事なんだよ。つまり、私が
巨大な釘が俺を刺した。こういうところはいかにも同島らしい。もしこれが合コンの後だったら、二人で抜け出せた時点で成功する可能性は高いだろう。でも同島だってそんなつもりで来てくれたわけじゃないはずだ。
夜とはいえ、深夜と呼ぶにはまだ早い時間。俺と同島は肩を並べて繁華街を歩く。いつも二人飲みで使っている店もこの繁華街にある。
人通りの多いこの街並みも、いつもより静かに感じる。同島の声だけに耳を傾けているからだろうか。
「ねえ、どうして私にあんなメッセージを送る気になったの?」
「あの二人組に絡まれて同島が困っているみたいだったから。まあ人助けだな」
「ふぅーん、人助けねぇ。ホントは?」
「同島が他の男に話しかけられているのを見るのが嫌だった」
「もう、ダメだよ? そんなにヤキモチ焼いたら」
そう言った直後から同島は鼻歌まじりに歩くようになった。
「もっとゆっくりできる所に行こっか。ついてきて」
同島にそう言われた俺は、黙って同島のあとに続いた。繁華街から少しずつ離れていっており、同時に少しずつ静かになっていった。
たどり着いたのは小さな公園だった。繁華街と比べると、夜の公園は無音じゃないかと思えるほど静かだ。
「こんな場所があったのか」
「私はよくここを通るんだよ。もちろん昼間の話ね。でも今は桜場が守ってくれるから来てもいいかなって」
誰もいない公園のベンチへ。俺の右側に同島が座る。
「ねえ、今までも私たちっていつも二人で飲んでたじゃない?」
「同島のグチを聞くためにな」
「うん、そうだね」
いつにもない雰囲気なのでつい茶化したけど、同島は真剣だった。
「その頃はさ、ホントにただグチを聞いてほしかっただけなんだよ。今考えると桜場が断ったことって一回も無いよね」
同島は俺の方は見ずに正面を見て話している。
「実は最近ある人から、私の中で桜場が特別になっているんじゃないかって言われてね。それから改めて考えてみると、桜場って意外と極たまにカッコいいことがあるなって思うようになっちゃって」
「ちょっと引っかかる表現があるなぁ」
「フフッ、それとね、桜場ってやっぱり私がしてほしいことや、かけてほしい言葉がある時に、ピッタリなことをしてくれるんだなって」
「それは俺が同島のためにできることはなんだろうと考えているからであって、特別なことをしてるつもりは無いんだけど」
「ホントすごいよね、あっさりそういうこと言えちゃうんだから」
その後も少しだけ話し、夜が更けてきた。
「そろそろ帰ろっか。私の家近くだから送ってね。場所は分かるよね?」
そして俺は同島の住むマンションまで同島を送った。
「今日はありがとう。私は十分に楽しかったよ!」
同島が両手を広げたかと思った瞬間、俺は同島に包み込まれた。といっても触れるか触れないかくらいの本当に軽いものだ。
「じゃあまた明日ね」
同島がマンションの中へと入っていった。今までの同島の印象は、どちらかというと強気・勝ち気だったけど、こんな可愛い一面もあるんだなと初めて知った。
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