第33話 同期に引っ張られた

 学校や職場でも、イケメンや可愛い女の子はなぜか有名になるもので、友岡ともおかの話では同島どうじまは職場で人気があるらしい。


 そして友岡が「頑張れよ」とエールを送ってくれた。同島ではなく俺に声をかけてきたということは、まず間違いなく友岡は俺が同島と付き合おうとしていると考えているだろう。


 本当に友岡はいい奴だ。イケメン・コミュ力高い・気遣いができる・その他いろいろ。

 だから俺は友岡に彼女がいるか聞いたことは一度も無い。きっといるに違いないと思い込んでいるからだろう。


 可愛い女の子の場合もそうで、きっと彼氏がいるに違いないと自分で決めつけ、行動する前に諦めることだってあった。


 でも考えてみるとどんなにイケメンや可愛い女の子でも、どこかでフリーのタイミングがあったからこそカップルになるわけで、それはやっぱり自分の努力や行動を起こした結果だと思う。

 なお、浮気や不倫は考えないものとします。



 週末になり親睦会の日がやってきた。なんとミーティングの時のメンバーが全員参加している。もし俺だけ不参加だったら、総攻撃を受けていたかもしれない。


 あんなに長々と「何かあれば私まで」と、場を仕切るようなことを言っておきながら、飲み会には来てなくて、「あの人だけいねぇし!」と思われるところだった。


 会場はごく普通の居酒屋。おそらく騒がしくなるだろうから、ちょうどいい。


 個室の座敷にテーブルが二つ。男女五人ずつの計十人なので五人ずつに別れて座る。打ち合わせしたわけじゃないのに、俺と同島と友岡は同じテーブルの席に座った。研修はもう2年も前なのに、三人全員が同じ行動をとったことが、なんだか嬉しかった。


 俺達のテーブルは入り口に近い方。もっとも入り口に近い場所に俺が座り、左側に同島、同島の左に友岡という並び。つまり同島は俺と友岡の間に居ることになる。向かいにはミーティングの時に初めて見た女性社員が二人。どうやらその二人は友達同士のようだ。


「へぇー、友岡さんと同島さんと桜場さくらばさんは同期なんですね」


 知らない人が見たら、男二人に挟まれている同島が不思議に見えるのかもしれない。


 乾杯を終えると、改めて自己紹介という流れになった。もう話すこと無いよ。誰も俺の趣味とか興味無いだろうし。あ、その前に俺、趣味が無かった。そういえば初めて先名さきなさんと会った日に、呆れられたっけ。


 飲み会で1時間もすると席なんて関係なくなるもので、すでに初期配置と変わっていた。

 なんだかもう一つのテーブルの男二人がこっちを見ているような気がする。同島と話したいのだろうか? でも俺はここを絶対に動かんぞ。


 するとその二人は、俺達の向かいに座っている女の子二人組と、席を替わるよう交渉を始めた。そうきたか。


 見事に交渉成立したようで、テーブルには俺、同島、友岡、その二人の五人ということになった。


「ミーティング以来ですね同島さん。俺のこと知ってましたか?」


 その二人組のうちの一人が、実に面倒な絡み方をしてきた。話しかけ方もうちょっとあるだろうに。


「えっと、ミーティングで初めて会ったから分からない、かな?」


 さすがの同島も返し方に困っているようだ。その後もその二人組は自分達のことばかり話し、同島が求めてないのに、仕事のアドバイスのようなことをしている。


 同島と加後かごさんがそれぞれ苦手と言っていたことを見事にしている。悪いとこ取りだな。


 俺と友岡も会話に入ってはいるが、同じ職場なのでキツいことを言うわけにもいかず、話を切り上げるタイミングを見計らっていた。


 するとシャツの左袖をくいっと引っ張られるような感覚があった。同島だ。それを見た俺はスマホで同島にメッセージを送った。


「あっ、ちょっとごめんね、スマホが震えたからスマホ確認します」


「もちろんどうぞ!」


 同島は男二人にそう断ってスマホを確認すると、俺の顔を見てきた。それもそうだろう、俺が送ったメッセージは『二人で抜け出さないか?』なんだから。

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