第30話 同期と見つめ合った
考えてみると初めて加後さんと会ってから、まだ一週間と少ししか経っていない。それなのに、もう二回目の約束をした。俺史上最速の進行度だ。
普通に接しただけなのに、いったい俺のどこを気に入ってくれたのだろう。
あの日、
全然普通じゃなかった。明らかにおかしなことの羅列じゃないか。でも案外それが強烈な印象として残っているのかも。
まあ、さっき加後さんが「自分の話ばかりしないから好感が持てる」と言ってたけど。
「今日はありがとうございました! 誰かと一日に二回も一緒に食事するなんて、初めての経験でした」
「それは俺も同じだよ」
「なんだか私、
「またそうやってよろしくない言い方をする」
「私は初体験って言っただけですよ? 桜場さん、何を想像したんですかぁ?」
君は先名さんの弟子なのか? 甘えてきたり、からかってきたり、本当に自由奔放な子だ。やっぱり自分に無い一面を持っている人は魅力的に見える。
その後は加後さんがここまででいいと言った場所まで送って解散となった。俺が同島や加後さんから評価されているのは、ガツガツしないことだ。押すか引くかのバランスは本当に難しい。
次の日。新入社員研修の準備も一通り終え、俺の役目もひとまず終わりを迎えた。先名さんからの指摘箇所の修正も済ませたし、あとは研修担当者に任せよう。
ところが、各部署からそれぞれ業務内容を説明する担当者が選ばれるのだが、俺がそれに指名されてしまった。なんでも若手のスキルアップも兼ねて、今年は経験が浅めの社員を選ぶことになったのだとか。もちろん上司のフォローはあるみたいだけど。
聞くところによると、カスタマーサポートの担当は同島になったらしい。そりゃそうだ、同期の俺も担当者になったんだから、なんら不思議なことじゃない。
そうなると困ったな。昨日の話を全部聞いてしまった俺は、同島とどう接すればいいのだろう。気をつけてないとうっかり「そういえば昨日そう言ってたな」なんて、ボロが出てしまうかもしれない。
あくまで俺は昨日あの場に居なかったということにしないと、加後さんと二人きりでの食事はまだいいとしても、コッソリ聞き耳を立てていたなんて悪印象極まりないことになってしまう。
その日の午後には担当者を集めてミーティングをすることになった。同島とは家に泊まった日から話はできていない。同じ職場でも部署が違うとそんなもんだ。
ミーティングルームには各部署の担当者がずらりと並んでいる。十人くらいだろうか。各部署一人ずつとは限らないようだ。
若手のスキルアップという方針のため、顔ぶれを見ても若さが溢れている。と、24歳の俺が言ってみる。
座席のレイアウトは長机をコの字の形に配置したコの字形式で、横に並んだ人以外の顔がよく見える。ちょうど向かいに同島が座っており、目を向けると完璧に目が合った。そしてそのまま見つめ合う。
茶色がかったセミロングのゆるふわパーマに少しつり目がちで大きくキレイな目、シュッとした鼻筋、色のいい唇。同島も間違いなく可愛いのだ。
そのまま見つめ合うことおそらく10秒ほど、ついに同島が目をそらした。昨日の話があったんだ、少し恥じらいがあったように見えたのは俺の気のせいだろうか?
どちらにしろ、ミーティングが終われば同島に話しかけるつもりだ。
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