第29話 後輩が不機嫌に見えた
「むうぅ、
加後さんが不機嫌に。そりゃそうだ、二人でただ黙々と食事する食事デートなんて、メインが破綻していて楽しいわけがない。
まあそれは冗談として、加後さんの真意は分からないとしても、食事に誘った相手(俺)を他の異性(同島)が好きだと思ってるかもしれないなんて分かったら、穏やかではいられないこともあるだろう。
もし俺がその立場だったら、少なからず嫉妬や焦りが出てくるに違いない。
「加後さん、さっきのはモテてるとは言わないと思うよ」
「いや、モテてます。しかも同島さんから。私、同島さんも好きだもん」
同島さんも。こういった言い回しが気になってしまう。『も』に含まれるのは、先名さんか俺のどちらなのか。それとも二人ともなのか。
先名さんは確定として、俺も入っているかもなんて、
目の前のテーブルを見ると、俺も加後さんも注文の品を完食していた。ただ黙々と食べていたんだ、食べるスピードにブーストがかかっていたのだろう。いわば帰ってもいい状況。
さすがにこれではダメだ。今日の印象が『同島の相談をコソコソ聞いた』になってしまう。加後さんと過ごすために来たんだから。
「加後さん、デザートを注文しない?」
「デザートですか、いいですね!」
さっきまでの不機嫌そうな表情から一転、目を輝かせて笑顔で同意してくれた加後さん。この振り幅はなんだかズルい。可愛い。
加後さんについて今日分かったことは、独身で彼氏はいない。今のところそれだけか。もう少し知りたいところだ。駆け引きは上手くないが、できるだけ自然に加後さんのことについて聞いてみよう。
「加後さん彼氏いないって言ってたけど、いいと思える人とまだ出会えてないことが理由だったりするの?」
聞き方がいいかどうかは別として、やっぱりせっかくだから、これくらいのことは聞かないと。
「ありがたいことに声をかけてくれる男性は今までに何人かいたんですけど、いきなり二人でってことには抵抗があって。仲のいい女友達と、その子達の知り合いの男の子達とグループで遊んだりしたこともあったんですけど、私、あまり積極的にアプローチされることが苦手みたいです。なので、質問の答えとしては『はい』ってことになりますね」
「それなら今日、加後さんから誘ってくれたこと、凄く嬉しいな」
「桜場さんの場合はですね、あの日同島さんから飲み会があるって誘ってもらって、やっぱり他のメンバーって気になるじゃないですか。それで聞いたら、男の人は一人いるけど軽率に女の子に言い寄ったりはしない人って答えが返ってきたから、行ってみようかなと思いました」
俺が同島に信頼されているから、結果的にそれで加後さんが来てくれたってことか。
「それで話してみると、同島さんが言ってた通りの人だなって思ったんです。やっぱり自分の話ばかりしない人って、私の中では好感が持てるんです」
「そういうふうに思ってくれてるんだね、ありがとう」
「どういたしまして!」
加後さんはモテるに違いない。でもだからといって誰でもいいわけじゃないということだろう。それは俺だって同じだ。
「桜場さん、私へのご褒美にお酒を注文しましょう!」
「無理! 何に対してのご褒美か分からんし、飲むなら家で飲んでもらおうかな」
「むうぅ」
加後さんは口を尖らせたが、本気で不満なわけではないようだ。
「いいもん、それならまた私と出かけてくれますか?」
「断る理由は無いって言ったら、また怒られるんだろうな。でも今は違うかな。断る気は無いよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます