第23話 後輩と食事に行った

 加後かごさんからの急な誘いで昼休みに二人で外食をして、さらに夕食も一緒にとりたいと誘われた。でも加後さんが行きたい場所は居酒屋だという。


「加後さん、居酒屋はやめておこう」


「そうですか? だったらバーでもいいですよ」


「君は酒豪なのかな?」


「違います! ただお酒が好きなだけです!」


「主張が強い!」


 きっと酒好きだからといって強いとは限らないのだろう。『酒は飲んでも飲まれるな』とはよく言ったものだ。


「加後さん、人前であんな酔った姿を見せないほうがいいと思うよ」


「むうぅー、あんな姿とはなんですか」


 口を尖らせて怒りを表現する加後さん。でも残念ながら可愛さが勝ってるんだよなぁ。


「だってほら、無防備というかなんというか、一緒に同島や先名さきなさんがいてくれるから、何事もなく済んでいるわけでね」


「だって桜場さくらばさんは女の子に手を出したりしませんよね?」


「その言い方だと、俺が世の中の女の子全員に興味が無いみたいに聞こえるんだけど」


「違うんですか?」


「違う。真顔で聞くのやめてもらえませんかね。むしろなんでそう思ったのか。『酔った女の子に手を出さない』なら分かるけど」


「だって同島さんがよく言ってるんです。『桜場は私に興味が無いのかな』って」


「同島そんなこと言ってるの?」


「はい。あ、変な意味じゃないですよ。ただ、いつも同島さんから飲みに誘ってるって言ってました」


 加後さんに言われて気がついた。確かに俺から同島を飲みに誘ったことは一度も無いかもしれない。たまに同島が口に出す「桜場は無害だ」という意味の発言って、俺への皮肉だったんだろうか。


「同島がそう言ってるから加後さんも、俺を信頼してくれてるってことなのかな?」


「そうですね。でもそれだけじゃありません。やっぱり直接会った時の雰囲気や印象ですね」


 信頼してくれるのは嬉しいけど、男としては複雑だ。それなら手を出せばいいのか? それも違うだろう。だったら、普通に段階を踏んでいけばいいんだ。


 では誰に対して? それは俺にも分からない。三人ともにそれぞれ魅力がある。それに加えて最近は俺が思ってもいない一面を見ることが増えている。というかすでに三人以外のことは考えていなかった。


「加後さん、改めて聞くけど今日の夜も本当に会うの? また後日にしない?」


「やだ。今日がいいもん」


 加後さんってこんな言葉使いだったっけ? まるで子供のようだ。


「分かった。今日の夜もご飯を食べに行こうか」


 そんなにもお願いされたら、応じたいと思うものだ。俺がそう言うと加後さんは、嬉しそうな顔を向けてくれた。



 昼休みが終わって職場に戻り、先名さんに指摘されたところを修正する。もし遅れるようなことがあったら、仕事においても加後さんとの約束においても影響が出てしまう。


 

 無事に仕事を終わらせた俺はすぐに約束した店へと向かった。すると加後さんはすでに到着していた。


「ごめん、待たせてしまって」


「大丈夫です。今来たばかりですからね」


 今日の昼休みも一緒だったけど、時間が限られていた。だからやっと落ち着いて加後さんと話せる機会が来た。


 

 


 

 

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