第24話 後輩と二連続で食事に行った

 一日三食の食事のうち、二食をまさか加後かごさんと一緒にとることになろうとは、絶対に予想できなかった。こういうことを急接近と呼ぶのだろうか。


 店については、飲酒がメインになる所は俺が全力で阻止した。力の使いどころが間違っているようだが、相手が加後さんの場合はそこに全力を注ぐべきだ。……だって泥酔するから。


 加後さんの好みを聞いたうえで、落ち着いた雰囲気のレストランに決めた。仕事終わりのため加後さんはスカートスーツ姿だ。


 店内へ入ると程よい活気と静けさで、お互いリラックスして会話ができそうだ。そして半個室のテーブル席に対面して座った。


「なんだか照れますね」


 きれいな黒髪ショートボブに大きな目、どこか幼さが残る可愛い顔立ちに白い肌、小柄ながらも先名さきなさんに匹敵するほどの上半身の膨らみの持ち主。俺は今そんな子と二人きりで過ごしている。

 なんかもうそれだけでモテているような錯覚を起こしそうだ。


「加後さんはよく外食するの?」


「うーん、よくってほどではないですね。私の場合は常に誰かと一緒に行きますから、都合が合えばといった感じです。桜場さくらばさんはどうなんですか?」


「俺は食事の手段が外食か弁当とかを買って帰るかしか無いから、一人でラーメンや牛丼を食べに行ったりが多いかな」


「食事の手段ならまだあるじゃないですか。お料理ですよ」


同島どうじまの家に泊まった時に、俺の腕前を見たよね」


「見ました。残念な腕前でしたね!」


 そう言った加後さんは笑顔だ。どう考えてもその言葉でその表情は不正解だと思う。


「なんでそんなに嬉しそうなの?」


「だって私もお料理できませんから! 私と桜場さんの共通点ですよ」


「それなら、同島の家で朝食を作る時になんで立候補したの?」


「だって目玉焼きですよ? 失敗するとは思わないじゃないですか」


「それは分からなくもないけど、軽く考えすぎでは? 俺は自分が失敗する自信があったよ!」


「わぁ! 桜場さんすごーい!」


 なんだろうこの会話は。中身はどこいった? でもまあ雑談ってこんなもんだよな。何よりも加後さんが楽しそうならそれでいい。


 せっかくの機会だから、加後さんのことをもっと聞いてみよう。聞くならやっぱり彼氏がいるかどうかだろうか? もしかしたら結婚している可能性もゼロではないか? 指輪はしていないけど。


 そう思うということは、俺は少なからず加後さんに興味があるということだろう。俺だって可愛い子と付き合いたいという願望はある。

 ただ加後さんを好きかと聞かれたら、今はまだ少し違う。俺だって誰でもいいというわけではない。


「桜場さんは彼女いるんですか?」


 加後さんの方からストレートな質問が飛んで来た。逆ならセクハラって言われそうで怖い。でもちょうど聞き方をどうするか考えていたところだったんだ。


「いないよ。加後さんはどうなの?」


 結局「彼氏いるの?」とは言わなかった。その少しの言い回しでも印象が違うと思ったからだ。慎重すぎるかもしれないが、言いたいことは分かってくれるだろう。


「もし彼氏がいたら今ここに来てませんよ」


 そう言った加後さんの雰囲気が少し変わった。その表情からは強い意志を感じる。やっぱり加後さんは、こういうことにはしっかりとした線引きがあるようだ。俺はその言葉を聞いてなんだか安心した。


 それなのに今、俺と二人で会ってくれているということは、他の男とは違うと思ってもらえているということだ。ならばここはもう少し踏み込んだことを聞いてみよう。


 俺がそんなことを考えていると、何やら話し声が聞こえてきた。女性のようだ。普通ならそれだけで終わるところだが、そうもいかなかった。


 なぜなら、聞き覚えのある声だから。仕切りがあるため姿は確認できないが、先名さんと同島の声にとてもよく似ていた。どうやら加後さんも気がついたようだ。俺が加後さんと目が合うと、加後さんは小さく頷いた。


 


 

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