第14話 同期の圧が凄かった

 そろそろ空が暗くなってくる時刻になったので、解散ということになった。

 だけど俺を含む先名さきなさん以外の三人の目的地は同じだ。加後かごさんは同島どうじまの家に泊まるため、今から同島の家へと向かう。


「本当に私も行かなくて大丈夫なの?」


「はい! 先名さんの家は私の家と逆方向ですからね。加後ちゃんも歩けるようになってますから、それほど大変じゃないと思います。それに桜場さくらばもいますからね」


「桜場くん、頼りにされてるじゃないの」


「ただ人手が足りないってだけの理由ですよ」


「女の子の家に入るからって、変なことしたらダメよ。まあ、桜場くんに限ってそれはないか」


「俺、先名さんにどう思われてるんですか」


「フフッ、秘密よ」


 どうも先名さんの前だと調子が狂う。初対面の時は、俺と加後さんが居酒屋の個室で良からぬことをしてたと勘違いしてたっけ。


「さあ、加後ちゃん帰ろうか」


ふぁーい!」


 同島に促された加後さんはフラつきながらも立ち上がった。


 俺達三人は先名さんと別れると、タクシー乗り場まで歩き出した。


「そういえば同島の家に行くの初めてだな」


「先名さんや加後ちゃんは何回も来てるんだけどね。男の人を家に招き入れるのは初めてかな」


「そうなのか。それは光栄だ」


 なんか思ってもみなかった情報が入ってきたな。そういえば同島に彼氏がいるか聞いたことは一度も無い。しょっちゅう俺と飲みに行ってるから、いないのだろうとは思うけど。



 10分ほどタクシーに乗って同島が住むマンションへと到着した。加後さんは時々フラついているため、同島が肩を貸しながらようやくここまでたどり着いた。


 ところがマンションのエントランスで、加後さんがへたり込んでしまったのだ。


「ごめんなしゃい。もう歩けましぇん」


「もう少しで同島の部屋に着くから加後さん、頑張って」


「……おんぶ」


「なんだって?」


 悪夢再び。しかも今はあの時とは違って同島が見ている。俺の本能が同島の許可を得ろと訴えかけているため、俺は同島を見た。


「加後ちゃん、もう歩けないみたいだね」


 俺は同島のその言葉を承認と受け取った。だが、俺はおんぶよりもお姫様抱っこの方が得意だ。


 なので今回もお姫様抱っこをするため、俺はこの場で片ひざを立てて座った。そして「加後さん、ここに座って両腕を俺の首の後ろに回して」と言おうとした。


 ところが俺がそう伝える前に、加後さんが何も言わず俺のひざの上に座り、両腕を俺の首の後ろに回した。体が覚えているとはよく言ったもので、俺も無言で加後さんの腰辺りと太ももを支えて、全身でゆっくりと立ち上がった。


 なんとお互い一言も発することなく、お姫様抱っこが完成したのだ。まさに阿吽あうんの呼吸。

 なんというムダの無い連携だろうか。これで同島も安心して部屋まで行けるだろう。


 ところが同島は動かない。ただ黙ってこっちを見ている。


「同島、案内してくれないと部屋の場所が分からないんだが」


 同島さん、そろそろ何か言ってくれませんかね? それからどのくらい待っただろう。ほんの数秒だっただろうか。同島が口を開いた。


「楽しい?」


 圧! 圧が凄い! また目が笑ってない。同島ってこんな怖かったっけ? マンガに例えると、『ゴゴゴゴ……』という効果音と共に、同島の周りの地面がえぐれて宙に浮く。みたいな。


「楽しいわけないじゃないか。これは介抱という名の人助けだ」


「ふぅーん、それなら早く私の部屋まで行ったほうがいいね」


 それからエレベーターに乗り、三階にある同島の部屋まで、俺は加後さんをお姫様抱っこしたまま向かったのだった。怖いから同島の目は見れませんでした。


 


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