第13話 美人の先輩の反応が見たくなった

 俺、先名さきなさんに普通に告ってた。


「人としても女性としても先名さんが好きです」って、完全に告白じゃないか。俺としては女性として魅力的だという意味合いが強かったが、言葉だけで考えると告白と思われても無理もない。

 そして今、俺と先名さんは至近距離で見つめ合っている。


「もう、桜場さくらばくん、お姉さんをからかったらダメじゃない……」


 先名さんの表情が色っぽく見える。うるんだ目、どこか濡れたように見える唇。ほのかな甘い香り。先名さんにしか出せないであろう甘い雰囲気。

 おそらくまだ、同島どうじま加後かごさんには出せないであろう、大人の色気が先名さんにはある。


 ここで万が一、万が一にも先名さんが目を閉じようものなら、そのままいってしまいそうになる。


「フフッ、桜場くん、私がキスを待ってると思ったでしょう?」


「まさか。付き合ってもいませんし、会うのだって今日が二回目ですよ? そんな仲じゃないし、それに周りに人がたくさんいますし、いくらなんでもそんな軽率なことはしませんよ」


 俺は先名さんに会話の主導権を握られないよう、努めて冷静に返事をした。


「そうだよね、桜場くんは勢いでそんなことはしないよね! さあ、早く水を買って加後さんに飲ませないとね」


 結局、先名さんに翻弄ほんろうされてしまった。でも、もし先名さんが本気でその気になったら、どんな反応を見せてくれるんだろうと、俺は初めて思った。


 足を止めた分、遅くなってしまった。急ぎ気味に自販機で水を人数分買い、俺と先名さんがそれぞれ両手に持った。そして同島達が待つ場所へと帰る途中も、先名さんとの会話は続く。


「桜場くんは彼女いるの?」


「いませんよ。先名さんこそ彼氏いるんですか?」


「私もいないよ。もしかして桜場くんがなってくれるの?」


「その気も無いのに言わないで下さいよ」


「その気にさせてみる?」


「俺が頑張ればその気になってくれるんですか?」


「それは君次第かな」


「その答えはズルいですよ」


 そんなやり取りをしているうちに、同島達の元へと到着した。自販機に水を買いに行っただけなのに、ものすごく疲れた。なんだかずっと緊張していた気がする。


「桜場しゃんさん、おかえりなしゃい」


 加後さんが出迎えてくれた。一見ポンコツに見えるが、きちんとおかえりと言ってくれる加後さんに癒される。さっきまでの緊張感から解き放たれた感覚がした。


(でもほとんど酔った姿しか見たことないんだよなあ)


「桜場、なんだかずいぶん時間かかったね」


 まあこう言われても仕方ないか。でも「先名さんと見つめ合ってました」なんて言ったら、同島がどんな反応するか分からん。


「そうか? 距離的にこんなもんだろ」


「ふぅーん、まあ桜場がそう言うならそうなんだね」


 今日の同島はなんだか怖い。まだまだ俺の知らない一面があるのだろう。


 俺と先名さんも元の場所へ座り、ペットボトルに入った水をそれぞれに手渡した。同島と加後さんがお礼を言って受け取り、加後さんはすぐさま飲み始めた。すでに先名さんにべったりとくっついている。


 俺にはまだこれから、加後さんの介抱という大仕事が残っている。まずは加後さんの酔いがある程度は覚めないといけないので、もう少しここで過ごすことになりそうだ。



 加後さんがなんとか歩ける状態になった頃には、もう少しすると空が暗くなり始めるという時刻だった。俺達は片付けを終えると、同島の家に向かうことにした。


 同島との付き合いは2年になるが、以前にどの辺から通勤しているのか聞いたことがあるくらいで、家に行くのはこれが初めてだ。


 


 

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