第12話 美人の先輩に好きなタイプを伝えた

 俺が水を買いに自販機へと向かう途中で、先名さきなさんが駆け足で俺に追いつき、唐突にこんなことを聞いてきた。


桜場さくらばくんは私たち三人の中だと誰が一番タイプなのかな?」


 あまりに急だったので、俺は思わず足を止めていた。ストレート。単刀直入。そんな表現がピッタリの分かりやすい質問だ。ただ、分かりやすいが答えやすくはない。


「急にどうしました? それに俺の好きなタイプなんて聞いてどうするんですか」


「どうもしないよ。私が知りたいだけ」


 俺の右隣にいる先名さんは、少し顔を上げて俺の目を見てそう言った。

 またからかわれているのかと思ったが、今までの先名さんとは少し違う気がしたので、俺は女性三人の印象について真剣に考えてみることにした。


 まず加後かごさんについて。きれいな黒髪ショートボブに大きな目、それに白い肌。見た目は間違いなく可愛い。性格は明るく、気さくに話してくれて好感がもてる。礼儀正しくてしっかりしてる子だと思う。


 それに友岡ともおかの話では、気軽に男と一対一で出かけたりはしないらしい。

 ただ、酔うとポンコツに。横に先名さんが居ようものなら、けしからんことが始まってしまう。


 次は同島どうじまについて。茶色がかったセミロングのゆるふわパーマに端正な顔立ちで、間違いなく可愛い。

 同島も明るい性格で新入社員研修の時、同じグループメンバーとのコミュニケーションに苦労していた俺に、友岡と一緒によく話題を振ってくれた。


 それからも二人飲みしたりと、何かと接点が多い。人を気遣うこともできるし、『いい奴』だ。ただ今日、俺が先名さんと加後さんとお姫様抱っこについて話していた時に、同島から言われた「楽しい?」という言葉。


 あれは怖かった。目が笑ってなかったし、あんなに楽しくない「楽しい?」は初めてだった。普段は本当に話しやすいのに、怖い同島を初めて見た。


 最後に先名さんだが、凛とした顔立ちに黒のセミロングにウェーブがかかった髪、長いまつ毛にスッキリした鼻筋、バランスのいい厚みの唇。文句なしの美人だ。


 面倒見がよく、同島や加後さんといった後輩から本当に慕われているようだ。俺も頼れるお姉さんとして尊敬できる。それでいて酔った加後さんと、しっかりおたわむれになるといった一面もあり、親しみやすい。


 ただ時々、俺をからかっているんじゃないかと思うことはある。


 三人ともがそれぞれに魅力的だが、「全員がタイプです」なんて答えるのも良くないと考えた俺は、正直に答えることにした。


「三人ともそれぞれ魅力的ですけど、誰が一番かと聞かれたら、先名さんですね。後輩からも慕われていますし、面倒見もよくて本当に尊敬できて、いつも落ち着いていて優しく包み込んでくれそうで、人としても女性としても先名さんが好きです」


「ごめんなさい、聞き方が悪かったわね。面と向かってあんな聞き方されたら、ウソでも私って答えるしかないよね。私の前だからって、気を遣わなくていいのよ」


「いえ、本心ですよ。あと言い忘れてましたけど、とても美人だと思います。でも決して見た目で決めてるわけじゃないですよ。そういえばあの時の飲み会で俺、先名さんに『好きです』って言いましたね」


 あの時は、人として好きですって意味で言った。先名さんもそれが分かっていたから、「どうもありがとう」と、軽く受け流していた。

 なので、これは俺が先名さんをからかってみるという『反撃』でもあるのだ。


「もう、桜場くん、お姉さんをからかったらダメじゃない……」


 先名さんは俺が思ってた反応と違っていた。俺を見つめる先名さんの表情が色っぽくなった気がする。俺も先名さんの目を見て話していたため、自然と近距離で見つめ合うような形になった。


(なんかいい雰囲気なんだけど……)


 ここで俺は重要なことに気がついた。さっき俺は、「人としても女性としても先名さんが好きです」と言った。


 普通に告ってた。

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