第11話 美人の先輩を間近で見た

 泥酔した加後かごさんを、同島どうじまの家に泊めようということになった。


「それでね……、その、桜場さくらばも来る?」


 同島が俺に向かってそんなことを口走った。同島の顔がほんのりと赤くなっているが、酔いによるものではないのかもしれない。同島は酔ったとしても見た目にはあまり出ないからだ。


「俺も行っていいのか?」


「加後ちゃんの介抱のためだよ」


「分かってるって」


 そう答えた俺だけど、同島からそんなことを言われたのは初めてだ。女性が男を家に呼ぶ意味くらい俺にだって分かる。でも必ずしもそうとは限らない。


 そもそもこんな流れでそういう意味なわけがない。それに加後さんも一緒に来るんだから、なおさらだ。


「加後さんにも言っておいた方がいいんじゃないか?」


「そうだね、加後ちゃんはどうしてるかな?」


 俺は改めて加後さんと先名さきなさんの方を見た。


「加後さん、えいっ!」


「あひゃあっ!」


 可愛い女の子と美人お姉さんのおたわむれが終わらない。俺はまるでラノベのタイトルのような感想をいだいた。


 ずっと眺めていたいが、さすがにもう俺が止めよう。それにしても先名さん、あんなふうにはしゃいだりするんだな。酒の影響だろうか?


「先名さんと加後さん、ちょっといいですか」


「どうしたの桜場くん?」


「桜場しゃんさん、なんれふですか?」


 加後さんはずっと先名さんに抱きついたままだ。よっぽど先名さんが好きなんだろう。


「同島が加後さんを心配して、今日は同島の家に泊まったらどうかと言ってるんだけど、加後さんどうする?」


「泊まりま!」


 ろれつは回ってないけど、話はしっかりと聞いているのが不思議でしょうがない。


「そういうわけだから同島、今日は加後さんと一緒に寝てくれ」


「桜場、酔ってない? 言ってることがちょっと変だよ」


 実際、俺も缶ビールを何本か飲んでいるから、ほろ酔いなのは確かだ。俺にはこの後、加後さんを介抱するという役目がある。俺まで泥酔してしまうわけにはいかない。


「ちょっと水を買ってくる。人数分買ってくるから」


 同島が持って来たクーラーバッグに入っていた水はすでに空になっている。あの状態の加後さんの相手は先名さんと同島に任せよう。


 自販機がある場所へ向かって俺が歩き出すと、先名さんの声が聞こえてきた。


「桜場くん、待って。一人で人数分を持つのは大変だから私も行くわ」


 先名さんが少し駆け足で俺の右側へと並んだので、俺は歩くスピードを少し落とした。

 女性三人の中で先名さんが最も背が高いとはいえ、俺と並ぶとさらに女性らしさが際立つ。


 近くで見る先名さんは、ウェーブがかかった黒のセミロングの髪の毛に長いまつ毛、スッキリとした鼻筋、バランスのいい厚さの唇といった要素がいくつもあり、やっぱりかなりの美人なんだと思わされる。


 そんな人と今俺は並んで歩いているんだと思うと、ちょっとした優越感を感じる。


「加後さんの相手はもういいんですか?」


「同島さんに任せてあるから大丈夫よ」


「加後さんと戯れてる先名さん、楽しそうでしたよ」


「やっぱり君、意地悪だな? そう言う君も同島さんとずいぶん仲がいいのね」


「新入社員の研修の時からの付き合いですからね。もう2年になりました」


「そうなんだね。同島さんはああいう性格だから、友達が多いみたいね」


 そろそろ目的地の自販機が見えてきた。そこそこ遠い距離なはずだけど、誰かと話しながらだと、こうも早く感じるものなのか。


「桜場くんは私たち三人の中だと誰が一番タイプなのかな?」


 急な質問に俺は足を止めていた。

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