第10話 先輩と後輩と同期が全員けしからん感じになった

桜場さくらばしゃんさんじぇんじぇん全然飲んでないじゃないすかー」


 加後かごさんが泥酔した。「本当の私を見てもらいたい」とはなんだったのか。

 いや、この姿が本当の加後さんという可能性がワンチャンもしかしたら……無いな。


 さっきまで正座していた加後さんだが、足を崩して足の裏が左右ともに加後さんから見て右を向いている。横座りというやつだ。お姉さん座りとも呼ぶらしい。


 それによってさらに困った事態になった。加後さんの正座により守られていた影になっている部分が、横座りになったことにより手薄になったのだ。


 ひざ上丈の桜色のふわっとしたワンピースと、そこから覗く透き通るような白い脚が本当によく映えている。これは『いいね!』がたくさんつくに違いない。


 俺の思考がヤバい方向へ向かい出したので、それを止めるため俺は右を向き先名さきなさんの様子をうかがった。


「加後さん、ちょっと飲み過ぎじゃないかしら」


 先名さんが加後さんを止めようと、優しく声をかけた。さすが先名さん、冷静だ。若干遅かった気がしなくもないけど。


ふぁーい、わかりましたぁ!」


 加後さんは素直な返事をしたあとに、すぐさま先名さんに抱きついた。


「やっぱり先名しゃんさんの胸、おっきくてフカフカ」


「んんっ……! もう! 加後さんも十分おっきいでしょ。えいっ!」


「わひゃあっ!」


 本当にこの二人は何をやってるんスかね……。先名さんも「えいっ!」てしなくていいのに。しかもまだやってる。これ以上は見てはいけないのだと俺は悟った。


 そんなたわむれを見て、同島どうじまはさぞかし呆れていることだろうと、俺は左に居る同島の方を見た。


「先名さんはともかく、加後ちゃんまであんなに大きく……。食べる物が違うのかな。それとも体質かな。だとしたら——」


 同島は両手を両胸に当てながら、そんなことをつぶやいていた。これはこれで見てはいけないのだと俺は悟った。


 見上げればソメイヨシノが目に映る。……ああ、桜って綺麗だなあ。ところでみんな忘れてませんかね? ここ屋外なんですよ。


 スカートの中が見えそうな可愛い女の子が美人お姉さんに抱きついて戯れ、その様子を両手を両胸に当てながら見つめる可愛い女の子。『けしからんの渋滞』とはまさにこのこと。もちろんそんな言葉は俺の辞書にしか載っていない。


 こんなところを人に見られると、無条件で俺だけが悪いことにされてしまう。俺は周囲を見回したが、こっちを見ている人はいないようだ。俺も周りの人達を気にしていなかったし、案外そんなものなのかもしれない。


 俺は同島に、加後さんが飲み過ぎているようなら止めてくれないかとお願いしていた。実際は俺も止められなかったから、同島を責めるつもりは全く無いが、これからどうするかくらいは相談しておいたほうがいいだろう。


「同島、加後さん大丈夫なのか? また前みたいなことになってるぞ」


 俺が同じことを2回言ってようやく同島が俺に気がついた。


「大丈夫よ。ちゃんと加後ちゃんをとめるからね!」


「いや全然止まってないと思うんだけど」


「それはそうだよ。だってまだ昼だもん」


 昼だからなんだというのか。そもそも昼夜なんて関係ないと思うんだけど。おかしい、何か話が噛み合わない。


 ここで俺はある結論に至った。まさか同島が言う『とめる』とは、家に『泊める』ということなのではないだろうか?


「まさかとは思うが同島が言ってる『とめる』ってのは、加後さんを同島の家に『泊める』ってことなのか?」


「うん、そうだよ。だってそんな状態の加後ちゃんを帰らせて、何かあったらいけないからね」


 日本語って難しい。


「それでね……、その、桜場も来る?」

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