第15話 同期の部屋に入った

 俺は加後かごさんをお姫様抱っこしたまま、三階にある同島どうじまの部屋へと向かっている。


 エレベーターを降りて同島について行く。ふと思ったが、あの飲み会の時とは違って、今の加後さんはひざ上丈のワンピース姿だ。


 つまり生足。そして白い太ももが半分くらい見えている。さらに両腕を俺の後ろに回されているため、抱きつかれた感じに。トドメに加後さんの太ももを持っているため、手に温もりとスベスベ感が伝わってくる。


 とてもイケナイ状態だった。このくらいで意識するなんて、中学生じゃないんだからと自分に言い聞かせたが、女性の肌に触れるって結構ハードルが高いことだと思う。

 どんなにイケメンでも、いきなり女性の太ももに触るのは立派な逮捕案件だろう。


「ここが私の部屋だよ」


 同島がドアを開けて招き入れてくれた。玄関にはブーツやヒールが何足かあるが、きれいに整理整頓されており、スッキリしている。


「おじゃまします」


 俺は加後さんをお姫様抱っこしたまま、中へと入った。


  1Kの部屋の中もよく片付いており、ベッドやテーブル・ソファ・テレビ・ラックといった家具が同島の好みであろう位置に置かれている。


 内装はわりとシンプルで、いかにも女の子の部屋ですという感じではない。今日の服装もパーカーとパンツのモノトーンコーデだから、同島は実用性を重視するのかもしれない。


「加後ちゃんをベッドに寝かせようか」


 同島がそう言ったので、俺は加後さんに同島のベッドへ行くよう促そうとしたが、いつの間にか眠ってしまったようだ。


「うーん、もう食べられましぇん」


 加後さんがベタな寝言を言った。まさか本当に言う人がいるなんて。

 俺は加後さんをゆっくりと同島のベッドに寝かせた。寝顔も可愛い。


桜場さくらば、手伝ってくれてありがとう!」


 同島が笑顔でお礼を言ってくれた。その目は……良かった、笑っている。

 本来、同島はこういった当たり前のことができる『いい奴』なんだ。あの怖い同島はきっと俺の気のせいだ。そうに違いない。きっとそうだ。そうだといいな。


 部屋には俺と同島の二人きり。(熟睡者はノーカウントとする)

 同島と二人きりなのは慣れているが、謎の緊張感がある。場所が変わるだけでこうも違うものなのか。


 部屋の中央に置かれた、長方形で木目調のローテーブルを前に、俺と同島は同じソファに隣り合わせで座っている。同島は俺の右側だ。


 しかし困ったな、何を話せばいいものか。ここまで来て仕事の話は論外だし、加後さんや先名さきなさんの話は怖い同島が覚醒しそうだし。


(よし、帰ろう!)


「俺、帰るよ」


「いやいや! まだ来たばっかだよね」


「俺がここに来た理由は加後さんをここまで連れて来ることだから、もう達成した」


「あのねぇ、理由が無いとここにいたらいけないなんてことはないんだよ」


「それは俺も分かるんだけど、特に何することもなく、ただ居るだけってのがどうにも落ち着かなくて」


「桜場にはこれから大事な役目があるよ」


「加後さんを帰らせることだな」


「今日加後ちゃんはここに泊まるんだけど、いつまで待つつもりなの? 別にいいけど」


「答えを教えてくれ」


「今日は晩ご飯を私が作るから、食べて感想を聞かせてほしいな」


 同島は料理が得意なのか。全然知らなかった。それよりも俺にはさっきから気になっていることがある。


さっき同島が言ったセリフ、「加後ちゃんをいつまで待つつもりなの? 別にいいけど」


『別にいいけど』。これはどういう意味だ? 俺も今日はここに泊まっても良いということなんだろうか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る