第7話 先輩と後輩と同期と桜を見る会

 同期入社の友岡ともおかのおかげで、退屈せずに場所取りをすることができた。


 先名さきなさん、同島どうじま加後かごさんの三人全員が俺に場所取りのお礼を言ってくれた。

 当然といえば当然だが、こういう当たり前のことがきちんとできる人達で安心した。


 会社主催ではないため全員私服だ。女性三人の中で一番背が高い先名さんは、濃いブルーのデニムパンツに白いブラウスで、女性らしさもありながら、どこかカッコよさを感じさせる。


 同島は黒ワイドパンツに薄いグレーのパーカーというモノトーンカジュアルで、動きやすさを重視しているのだろう。


 加後さんは淡い桜色でショート丈の、ふわっとしたワンピースで、黒髪ショートボブと合わさって可愛らしい印象を受けた。


 それぞれがレジャーシートの上に座る。俺から見て左に同島、正面に加後さん、右に先名さんという位置関係だ。


 レジャーシートの下は芝生なので、座り心地はフカフカで快適。辺りを見回すと当然ながら桜の木が何本もあり、俺達が座っている場所のすぐ近くにもある。見上げればよく晴れた青空と桜の色彩が見事に映えており、写真でも撮ろうかという気持ちが湧き上がる。


 家族連れやカップル、会社のイベントであろう団体など、人々が思い思いに楽しんでおり、こういう文化はいつまでも残ってほしいと願わずにはいられない。


 俺がそのようなことを考えていると、早くもここで問題が発生した。正面に座っている加後さんが正座をすると、ショート丈のワンピースから、加後さんのひざと白い太ももの途中までがよりあらわになった。そしてその先の影になっている部分に注目しそうになってしまう。


 正面に座っている俺はたまったものではない。目のやり場に困る。ガン見凝視は論外として、チラ見でもきっと気づかれるだろう。

 花見なんだからレジャーシートに座ることが分かりそうなものなのに、なんでそんな服装で来ちゃうのかこの子は。可愛いけど。


 いらぬ誤解を招きたくない俺は名案を思いついた。上を向いていればいいのだ。

……桜が綺麗だなあ。きっとソメイヨシノだろう。それしか知らないが、そうに違いない。


 俺が上を向いたまま花見をしていると、加後さんの可愛い声が聞こえてきた。


桜場さくらばさん、さっきからずっと上を向いていますけど、桜が大好きなんですね!」


 加後さんが明るいトーンで俺に言った。君のせいなんだけどね。そりゃ見たい。見たいが視線ひとつでいだかれる印象がガラッと変わることだってあるのだ。この苦労は男にしか分からないだろう。


「そうなんだよ。だって俺の名前は桜場だから、桜が好きに決まってるよね」


 我ながら耳を疑うほどの激寒発言だが、この状況において上を向くことは、ごく自然であると言えよう。


「ふぅーん、桜場くん、本当にそれだけ?」


 当然の如くスベッた俺に、先名さんが含みのある質問をしてきた。その表情はどこか悪戯いたずらっぽく見える。


「質問の意味がワカリマセン」


「あら? 言っていいのかな?」


「誰も得しないのでやめて下さい」


 先名さんの服装はパンツスタイルだ。おそらくこういうことを見越してのことだろう。


「桜場、私も意味が分からないんだけど、先名さんとなんの話をしてるの?」


「俺もよく分からん」


 同島もパンツスタイルだが、そこまでは考えていないのだろう。そういえば同島と二人飲み以外で会うのは初めてだなと、ふと思った。


 先名さんが花見の始まりを告げるかのように、レジャーシートの真ん中に大きめのランチボックスを置いた。三段重ねになっており、大容量であることが分かる。


「頑張って作ったから、たくさん食べてね」


 それから同島がクーラーバッグから缶ビールを人数分取り出して、それぞれ手に缶ビールを持った。


 乾杯を終え全員が一口目を楽しんだところで、俺の脳裏に不安がよぎる。


(加後さん、飲み過ぎないでくれ)


 そんな思いから、せっかく気をつけていたのに、俺は加後さんをガン見していた。

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