第6話 なぜか後輩の情報が入ってきた

 花見をすることになった。メンバーは、先名さきなさん、同島どうじま加後かごさん、そして俺の四人だ。


 同島はともかく、先名さんと加後さんは知り合ったばかりだといえる。そんな人達と花見って、俺にとってはハードモードだ。


 地元で有名な花見スポットでの開催のため、混雑が予想される。万が一にも場所が無いなんてことにならないよう、俺は場所取りを買って出た。


 午前中に到着したがすでに始めている人達も多く、俺は周辺を歩き回り、良いと思った場所へレジャーシートを敷いて陣取った。


 ここからは暇との戦いだが、スマホさえあればなんとかなるもんだ。Web小説マジで神。


 俺がどの作品を一気読みしようかと迷っていると、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「よう、桜場さくらばも花見か?」


「友岡(ともおか)じゃないか。俺は場所取り中だ」


 声の主は友岡といって、黒髪ベリーショートが清潔で爽やかな印象を与えるイケメンだ。同期入社で研修の時に同じチームだった。つまり俺と同島と友岡はお互いにわりと仲がいい。


「桜場はこれからなんだな。俺は大学の時の友達と来てて、もう帰るところなんだ」


 さすがはリア充友岡。会社関係以外でもしっかりとした交流があるようだ。俺にも学生からの友達はいるが、花見をするほどではない。

 なので素直に友岡のコミュ力の高さは凄いなと思っている。


「そういえば同島も花見をすると言ってたな」


 不意に友岡がそんなことを口走った。友岡は同島から声をかけられていないであろうことが推察される。


 もし本当にそうだった場合、俺だけが誘われたということになる。友岡はそんなことを気にする奴じゃないが、わざわざ言わなくてもいいことだと俺は判断した。


「そうなのか」


「同じ部署のリーダーと加後さんと行くんだと言ってたな」


 友岡は先名さんの名前は知らないらしい。でも加後さんは知っている。さすが加後さん、有名人だ。


「なあ桜場、加後さんって可愛いよな。それに気さくでいい子だと思うんだよ俺は。でも彼氏いないらしいぞ」


「その情報源はどこなんだ? 本人が言ったわけじゃないだろう?」


「いや、本人が言った」


「なぜそう言い切れる?」


「俺が本人から聞いたから。おまけにランチに誘って断られた」


「お、おぅ……」


 友岡はすでに加後さんに手を出し——もとい、アプローチをしていた。


「桜場、俺が思うに加後さんはその辺りしっかりしてるぞ。とても丁寧にお断りされたからな」


「気軽に男と一対一で出かけないってことか? まあなんというか、これからも頑張ろうぜ」


「おう! ありがとな!」


 俺の精一杯の励ましに素直にお礼を言う友岡。俺は友岡のこういうところが人として好きだ。ようするに『いい奴』なのだ。


「そういえば同島の部署のリーダー、美人だよな。少し年上の美人お姉さん、お近づきになりてえ」


 だが早速この発言である。切り替えが早いというかなんというか、めげないというか。イケメンだからって、無条件で上手くいくとは限らないのだろう。


「先名さんのことだな」


「先名さんっていうのか。なんか優しく包み込んでくれそうだよな」


「あー、分からんでもない」


 その後は少しの時間、友岡としょうもない雑談をした。


「それじゃ俺そろそろ行くわ」


「またな」


 友岡は仲間の元へ帰って行った。なんか意図せずして、加後さんの情報が入ってきたな。

 あの時、俺に見せた姿はなんだったのか。やっぱりただ単に酔っていただけなのだろう。


 友岡のおかげでいい暇つぶしになった。あとはWeb小説の出番だ。

 読みながらも時々辺りを見回すと、知っている三人が近づいて来ていた。


「桜場くんお待たせ、場所取りありがとう」


「桜場、ありがとうね」


「桜場さん、ありがとうございます」


 これから俺のハーレム(?)花見が始まろうとしている。


 

 



 

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