第2話 よく知らない後輩にお姫様抱っこをしようとした
同期の
「
「……お姫様抱っこなら」
そのお願いにそう答えた俺も正気ではなかった。どうすんだこれ。
すでに同島は家の急用で帰っている。でも応援を呼んでくれたらしいので、それまでは俺がなんとかするしかない。
「加後さん、やっぱり今の発言は無しで」
「ええぇー! なんでー!?」
「なんでって、ほぼ初対面の男にお姫様抱っこされたいなんて思う?」
「同島
それは同島から男として見られていないだけだろう。
「加後さんは今までにお姫様抱っこされたことあるの?」
「ありま
「誤解しかされない言い方をしないように!」
「だめ?」
加後さんはそう言いながら、テーブルの向こうで目をうるうるさせて俺を覗き込むように見てきた。
(これで計算じゃないとか本当か?)
こうなったら俺も意地だ。言ったことの責任をとろう。お姫様抱っこやってやろうじゃないか。
見た感じ加後さんは小柄だ。俺との体格差は結構ある。とはいえ、成人の女の子だ。どんなに少なく見積もっても40キロはある。40キロってかなりの重さだ。普段そんな重い物を持つことなんて無いだろう。
一応、普段から全身を鍛えている。下手をするとケガをしてしまうが、前の彼女の時も難なくできたし大丈夫だ。
俺は床に片ひざを立てて座り、その上に加後さんに座ってもらった。そして両腕を俺の首から後ろに回してもらい、俺は加後さんの腰辺りと太ももの下を支えた。そしてそのまま全身でゆっくりと立ち上がっていく。
スカートスーツ姿の加後さんだが、ストッキング越しに支えた脚からも、
「ふわあぁぁ……私、お姫様になりましたぁ。桜場
「その言い方はダメだって!」
結婚式なのかというくらい見事に加後さんをお姫様抱っこした俺だが、ここで重要なことに気がついた。
(なんのためにしたんだ?)
同島が応援を呼んだと言っていた。タクシーに乗せるわけでもなく、ましてや抱っこしたまま帰るわけでもない。ただ座って待てば良かったのだ。
「加後さん、冷静に考えたらこれ意味無いから降りてもらうよ」
「ええぇー! もうちょっと! 私、そんなに重い
「いや、決してそんなことはないんだけど、ここからどうするのって話だよ」
「私の初めてを
「言い方!」
その時だった。個室の戸が開いたかと思うと、見覚えのあるキレイな女性が入って来た。
「君は私の後輩に何をしているのかな?」
お姫様抱っこをしたままの俺に質問してきたのは、凛とした顔立ちに黒のセミロングにウェーブがかかった髪で、背が高くてパンツスーツがよく似合っている美人だ。いかにも仕事ができそうな雰囲気をまとっている。
「あ、いやこれはですね、加後さんからのリクエストでお姫様抱っこをしているんです」
「加後さん、そうなの?」
「私は『おんぶ』って言ったん
「加後さんはこう言ってるわよ?」
「すみません、俺が勝手にグレードアップさせました」
「お姫様抱っこの方が上位なのかは分からないけど、とりあえず写真を撮りましょう」
そう言ってスマホを両手で構えた美人お姉さんに、俺は慌てて訴えた。
「とりあえず写真ってなんですか!」
「ウェディングフォトじゃないの?」
「俺と加後さんしかいなかったのに誰が撮るんですか」
「私そのために呼ばれたんじゃないの?」
「答えが分かってるのに質問しないで下さいよ、先名(さきな)さん」
「あら? 私のこと知ってるのね」
「同島の部署のリーダーですよね? 俺、同島と同期の桜場です。同島から聞いたこともありますし、他の部署でもリーダーなら知っていますよ」
「私は先名っていいます。よろしくね。それで桜場くん、加後さんといつ結婚するの?」
「しませんよ」
「ええぇー! 私が初めてを捧げた責任取ってく
「桜場くん、まさか……?」
「違いますよ! 加後さんは酔っているだけです。同島から事情を聞いてますよね?」
「まさかこんな所で加後さんと……!?」
「とんでもない誤解するのやめてもらえませんか」
「でも桜場
「その言い方は非常によくないな!」
そんなわけあるかと反論しようとしたが、俺は加後さんをお姫様抱っこしたままだった。確かにずっと触っている。このままだと俺は社会的に終わってしまう。
「とりあえず降りてもらおうか」
「しかたない
俺はゆっくりと加後さんを立たせた。なんで最初からそうしてくれないのか。それからとりあえず全員が座ることにした。対面の左に加後さん、右に先名さんが居る。
「お姫様抱っこはもういいの?」
「好きでしたわけじゃありませんよ」
「加後さんって可愛いよね。桜場くんもそう思わない?」
「そうですね。可愛いと思いますよ」
「意外、あっさり口に出すのね。加後さん、聞いた? ……寝ちゃったようね」
「加後さん寝たようなので、解散ですね」
「桜場くん、せっかくだからもう少しお話しない?」
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