第3話 美人の先輩と話すことになった

 酔い潰れた加後かごさんを迎えに、加後さんの部署のリーダーである先名さきなさんが来た。


 加後さんが眠ってしまったので解散かと思いきや、先名さんから「もう少しお話しない?」と言われたのだった。


「お話ですか。俺、気の利いた話はできないと思いますよ」


「話すのあんまり得意じゃない?」


「そうですね。なので毎日電話対応してる同島どうじまは本当に凄いと思ってます」


「同島さんとの馴れ初めを聞かせてくれないかな」


「馴れ初めって、俺と同島は付き合っていませんよ。研修で一緒だっただけです。同島はああいう性格なんで、よく話しかけてきてくれたんですよ」


「そうなんだ。それで好きになって頑張っている最中、そういうことね!」


「なんでそうなるんですか」


桜場さくらばくんは今いくつ?」


「24です」


「私より3つ下かぁ」


「あの、年齢言って大丈夫なんですか? 女性は年齢を隠したいものだと思っているんですけど」


 俺がそう言うと、先名さんは軽く笑いながらこう答えた。


「隠したところで今27歳だという事実が変わるわけじゃないし、ずっと嘘ついてるみたいで私は嫌かな。それで若返るならいくらでも嘘つくけどね!」


いさぎよいですね。まあ、俺からは一言も先名さんの年齢聞いてないんですけどね」


「さては君、意地悪だな? それに実年齢を言うと、『見えない! もっと下だと思った』と驚かれることもあるから、もっとそうなるように努力をしようという気になるの」


「それは俺も分かりますね」


「だよね? やっぱり桜場くんも若く見られたいよね」


「いえ、俺が言ってるのは、先名さんが実年齢よりずっと若く見えるということですよ。きっと凄く努力をしているんだろうなと思います」


「さっ……、さあ次は君の話をしてもらおうかな」


「そう言われても何を話していいのか、難しいですね」


「そうね、なら私が質問するから答えてもらおうかな」


「分かりました」


「趣味は何?」


「うーん、なんだろう? 特に何も無いです」


「特技は何?」


「思い当たることが無いので無いと思います」


「休日は何してるの?」


「寝てますね」


「興味があることは何?」


「模索中です」


「無個性!」


 先名さんはそう言うと片手で頭を抱えた。


「ごめんなさい。それが悪いと言ってるわけじゃないの。君は物事や他人にあまり興味が無いタイプなのかな?」


「自分では全くそんなつもりじゃないんですけどね。例えば今は先名さんのことをもっと知りたいと思ってます」


「あぁ、どうりで同島さんが気にかけるわけね」


 先名さんはそう言って何やら納得したような表情になった。


「それなら加後さんはどう思ってるの?」


「ほぼ初対面なので今日だけの感想になりますけど、見た目は間違いなく可愛いです。性格も明るくて話しやすいなと思いました」


「もっと知りたい?」


「そうですね」


「加後さんの連絡先教えてあげようか?」


「いえ、それはダメでしょう。本人の許可をもらう必要があるし、知りたければ自分で聞きますよ。ご厚意ありがとうございます」


「桜場くん、いいね。それと私だって人の連絡先を勝手に教えたりはしないわよ」


「もちろんそう思ってますよ。そろそろ解散しませんか?」


「帰りたいの?」


「加後さんが心配なので。先名さんと話したくないからとかじゃないですよ!」


「フフッ、ちゃんと分かってるわよ」


 相変わらず加後さんは眠ったままだ。実はさっきの会話を聞いてた、なんてことは無いよな?


「桜場くん、これも何かの縁だから私と連絡先を交換しない?」


「ぜひ交換しましょう。断る理由がありませんからね」


「うーん、君は良くも悪くも正直すぎるのかなぁ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る