第2話 友助
大正の時、俺は医者をしていた。
医者をしていて、一番奇妙で例をみない症例の患者と出会した。
母親の話によると、生まれつきツノが生えていて、鬼の形相をしているという。
俺は食われるのではという恐怖と患者を助けねばという正義感で、この仕事を受け持った。
座牢式にいるというので、ちょいとばかし顔を見ると、見窄らしいススキ色の着物を着た女の子がちんまりと牢の端に座っていた。
しかし、本当に母親の証言通り、ツノが生えていた。顔は年頃の女子にしては可愛らしいほうであ
った。
俺はこの時点で、ツノの正体はある障害なのかと考えついていた。頭蓋骨変形障だ。
俺がそうぼそっとこぼすと、牢の患者はまじまじと俺を見ていた。
意思疎通を測ろうと、一か八か質問を投げかけた。
「君は、家族の誰かに勉学を教わったかい?」
言葉での返答はない変わり、患者は首を横に降った。
母絵の話では言葉は多少喋ると話だったが、やはり警戒されているのか。
引き続き、質問を投げかけた
「では君は家族に愛情を注いでもらっているのかね?」
またもや返答は首振りだけだと、俺は思ったが、
「わからない、だってずっと、ここ、だから…」
少女がぼそっとこぼした。
なるほど、この子は俗に言う人見知りだろうと自分の中でこの子の印象が色濃く生成されてゆく、
もう少し会話できればいいのだが、こればかりは本人の問題だ。
手帳に人見知り、変形とだけ記し、三度聞いた。
「君はここから出たら何がしたい?」
普通の子ならば、外を見たいなど、玩具がほしいだの言い出すものだが、その患者は何も答えずにいた。
外というものを何一つ知らぬのであろう。
少々悩んだ、まず一つに風呂に入れてやろうと錠前を開け、風呂場につれて行ってやった。
湯を沸かしている間、新しい着物を用意し、患者をさっと裸にした。
患者とはいえ、年頃の女子の裸体は、照れくさく、見れたものではない。
軽く髪を洗ってやり、さっと体を洗ったが、患者は終始不思議そうに泡を見るばかりだ。
もしや、風呂と言うものを知らぬのであろうか。
風呂から上がり、髪をたおるで乾かしてやり、
「この気持ちのいいお湯はな、お風呂というのだよ、」
と教えてやった。患者は不思議そうな目で俺を見た。
着物を着せるときも終始俺の気も知らず、患者の赤茶の瞳は俺をとらえていた。
角さえなければ、美人だろうに、
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