鬼少女

稲荷 和風

第1話 出会い

大正の時、医者の仕事をしている、友助という青年に私は初めてあった。


錠前付きの座牢式にちんまり座ったみすぼらしく薄汚れた私をみて、大層驚いていた。


産まれた時からこの座牢に入れられ、はや10年はたつであろう。


人とのふれあいなどなく、勉学さえもわからない私を友助さんはもの珍しく見やった。


私のでこにはツノが生えていたのである。


後からわかったことだが、これは「ズガイコツノヘンケイ」というものらしい。


頭の骨がひん曲がり、こんな形になってしまっているとのことだ。


友助さんは私にこう尋ねた、 

友助「君は、家族の誰かに勉学を教わったのかい?」


私は首を横にふる。勉学など、わかるはずもない。


友助さんは首を傾げ、再び聞いた。

友助「では君は家族に愛情を注いでもらっているのかね?」


アイジョウ?わからない、首を横に振り私は呟くように


「わからない、だって、ずっとここだから」


と答えていた。


友助さんは参ったと言わんばかりに頭をかき、本に何かを書いてこう言った

「君はここから出たら何がしたい?」


答えられなかった。出たことがない場所など、考えもつかないからだ。


友助さんは困ったなと言わんばかりの困り顔で、牢の重苦しい錠前を開け、私を家のどこかへ連れて行った。


何度かみたことのある場所だった。四角い箱に蛇口のついた変な部屋だった。


よくねえやが私の顔をこの箱いっぱいの水に押し沈めて息苦しくしていた。


だが、友助さんはそんなことしなかった。


私の着物をさっと脱がし、暖かい水に入れて、髪に何か白いふわふわしたのを乗っけたり、髪を優しくゆすったりしていた。


次第にふわふわを流し、体にも別の白いのをつけて優しく擦った。


髪を乾かす時に教えてもらったそれは、オフロというものらしい。


友助さんは何故か照れくさそうに新しい着物を着せてくれた。





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