追放エースは女子サッカーコーチから成り上がる 【旧題】:サッカー界から追放された俺、女子サッカー部を成長させる……って、なんでハーレムが出来ている!?
第64話 山岳高校(with 豆芝)VS沢江蕨高校 後半戦
第64話 山岳高校(with 豆芝)VS沢江蕨高校 後半戦
後半戦が始まってから俺はゆったりとした足取りで前線へあがりながらどの選手が交代になったかを確認していた。
後半戦フォーメーション
山岳高校(4-4-2 フォーメーション)
CF:ビブス番号20、霧原
CAM:ビブス番号18、豆芝
LM:20番、斎藤りか(後半出場)
RM:5番、須王ミナモ
CDM:6番、岡田ゆり
CDM:7番、松井ひかり
CB:2番、一条セナ
CB:3番、中川さくら(キャプテン)
SB:4番、
SB:23番、久保あゆみ(後半出場)
GK:1番、
ーーー霧原ーーーーーーー
ーーーーーーー豆芝ーーー
斎藤ー松井ーー岡田ー須王
氏原ー中川ーー一条ー久保
ーーーーー西本ーーーーー
沢江蕨高校(1-3-2-4-1 フォーメーション)
CF:10番、桐山 颯太 【Kiriyama Sota】
CAM:9番、山下 翔 【Yamashita Sho】
CAM:27番、加藤 隼人 【Kato Hayato】(後半出場)
RM:8番、三井 亮 【Mitsui Ryo】
LM:13番、西村 悠斗 【Nishimura Yuto】
CDM:6番、三原 慎吾 【Mihara Shingo】
CDM:24番、村上 創 【Murakami Sou】(後半出場)
CB:5番、則塚 千鶴 【Norizuka Chizuru】
CB:4番、佐藤 恭平 【Sato Kyohei】
CB:17番、藤井 直人 【Fujii Naoto】
GK:1番、衿口 智也 【Eriguchi Tomoya】(キャプテン)
ーーーーー桐山ーーーーー
ーーー山下ーー加藤ーー
西村ー三原ーー村上ー三井
ー佐藤ーー則塚ーー藤井ー
ーーーーー衿口ーーーーー
こちらは須王を一列あげて追加点を狙う方針、相手側は攻撃にフレッシュな選手と中盤であまり芳しくなかったCDMを変更したという感じだ。相手のCDMがどの様な選手が分からないため気を引き締めるかと思っていると、交代した27番にボールが渡る。
27番はこちらの中盤に対して果敢な仕掛けを行い一人抜き去って見せた。ドリブル技術が高い選手だと高くラインをはりながら分析していると――27番がシュートを放った。
力みすぎたのか横側に外していたが、中々に腰の入った良いシュートだ。そんな事を思いつつCDMに入った優男の前に立っていると――彼から声をかけられた。
「君は確か……」
「三原です」
「あぁ、そうだ。三原くんか。どうしたんだい?」
「その、どうやったらそこまでうまくなれるんですか?」
三原くんが後ろから問いかけてきた内容は、選手としては至極当然の疑問だった。実力が高い選手が近くにいるなら、どんな練習をしているか知りたいというのが世の人間というものだから当たり前というわけである。
「まぁ、あれかな。サッカーに関しては人一倍勉強してきたかな」
「勉強、というと戦術系について学んできたという感じですか?」
「まぁ、そんな感じだね」
俺はそんな風に話しつつ、CAMの位置から少し後方へ下がった。俺はそもそも、ガタイがそこまで突出しているわけではないためポストプレーみたいなフィジカルを用いるプレーを不向きとしている。だからこそ、今回はCAMにおりて味方がパスを出せる入り口として動こうと考えたわけである。
「……三原くん。俺についてきていいのかい?」
「はい。後半戦は僕が豆芝くんを抑え込んでほしいと言われているので」
「ふぅん……そうなんだ」
俺はそんなことを言いながら中盤から送られてきたパスをワンタッチで弾く。後方にフリックされたボールはRMに入った須王へ綺麗に渡った。
「なっ――」
「三原くん。マンマークするだけのCDMなんて全く意味がないよ。言われたことをさらに昇華させないと、上のレベルなんて勝てるわけがない」
俺はそう言いながら反転し彼を抜き去る。前方につり出した三原くんと3CBの間に生み出されたポケットに侵入した俺は走りこみながらちらりと左を見る。
その間に、須王は目の前で立ちふさがる相手選手をダブルタッチで躱して見せた。3CBの弱点であるサイドの薄さを彼女は上手くつきながらペナルティエリアへと侵入する。
「豆芝さん!」
そのまま、須王からパスが渡された。それと同時に副キャプテンのCBが飛び出す形で対応を行ってくる。判断は確かに間違ってはいなかった。
ただ一つ不幸だったのは、パスを出した人物が斉京ビルダーズ出身ということだ。
「なっ――!?」
相手CBが飛び出してカットしようとしたボールを見て、そんな声を出した。無理もない、だって彼が左足を伸ばした先を避けるようにボールが左へ回転したのだ。
インフロントのカーブパスがゴロで飛んでくるというのは、あまりにも非現実的であり、そして予想が出来るものではない。何より、パスを受ける相手が考慮しないと反応一つすることが出来ない方法だ。
だが、俺は取れるのだ。
「ナイスパス、須王」
中央CBを抜き去った俺はパスを出してくれた須王にお礼を伝えてから右足を鋭く振りぬいた。上側への力がかかったシュートがゴール右上のネットを激しく揺らす。
これで、二点目をこちらが獲得できたというわけだ。
「ナイスシュートです、豆芝さん!」
「ありがとうございます、霧原さん」
「ナイスアシストですよね、豆芝さん!! 私のおかげですよね!!」
「あぁあぁ、そうだな。すごいな」
「ちょちょちょっと! 適当に言わないでくださいよ!」
霧原さんや須王から誉め言葉を貰いつつ、自陣へと戻った。
高校生との試合だから、もう少し強度が高いかと思っていたが、案外そうでも無いらしい。よく考えたら沢江蕨高校は別にサッカー推薦があるみたいな強豪でもないし実力がこれぐらいで収まっているのは妥当なのかもしれない。
そんな風に対戦相手を評価しながら、俺は思う。
こうやってコーチとして活動している間に、一軍の選手とどのぐらい実力差がついているんだろうかと。
神門や琴音が言うように、斉京学園には様々な逸材が国内最高級の環境でサッカーについて学び、鍛錬をし続けている。それに対して俺はずっと、そこそこのサッカーチームでコーチとして活動し続けているわけだ。
彼らからしてみれば、俺はただの馬鹿野郎に見えるだろう。
人間は主観でしか物事を見る事なんてできないのだから。
その後、俺は後半六十五分まで出場した。
二ゴール、二アシストを記録したためまぁまぁな結果だったが、もう少し伸ばせたのかもしれないと思うと少々反省点があると感じつつ、互いの監督たちへ挨拶を済ませてからその場を後にした。
※
男子寮の部屋にて、俺は戦術を考えながら荒畑さんと話していた。
「……結局、今日の試合は豆芝くんが一番成績を残したようだね」
「そうなんですか」
「あんまり嬉しくなさそうじゃないね」
荒畑さんの言葉を聞いた俺は口元を触る。
確かに口角が上がっていないようだ。
「今日の試合、楽しくなかったかい?」
「楽しくなかったわけではないですけど……うん、いや。もしかしたら、楽しくは、なかったかもしれないです」
「それは、なんでだい?」
「もっと、俺は上の所でやれるって思うからですかね」
それを聞いた荒畑さんは少し驚いた様子を見せた。
「驚いたな。向上心剥き出しにするんだ」
「まぁ、それなりにしますよ」
「それにしては、結構険しい顔をしているね」
「――度合いであらわすとしたら、どのぐらいですか?」
俺が問いかけると、荒畑さんは言った。
「初音さんが怒髪天で怒号をあげるぐらいかな」
「そりゃ……とんでもないですね」
「ハハッ、言わないでおいてくれよ?」
少しだけリラックスした気分になりつつ、荒畑さんに問いかける。
「俺、高給取りのプロ選手になりたいんです。どうやったらなれますか?」
「うん、ならプロにならないほうがいいんじゃない?」
「――え?」
「だって、考えてもみなよ。JFLなら1350分、J2なら900分、J1なら450分間試合出場しないとそれ以上契約は結べない。プロB契約は年俸上限460万円、プロA契約を初年度結ぶ場合でも、670万円という縛りが入るわけだ。君が入りたいと考えているプロサッカー業界ってのは、それぐらいにお金がシビアなんだよ。それならいっその事、選手としての道を捨てて別の仕事で給料を稼いだ方がいいだろ」
金という概念を荒畑さんは強く咎めてきた。正直言うと、俺は金銭面という情報を一切調べてこなかった。実力さえ伸ばしていればプロA契約を早期に結び、1000万円を超せるだろうと勝手に考えていた。
それが、現実はどうだ。
初年度は必ず670万円があるなんて制約があると、理解していなかったのだ。プロになりたいとは言葉で口にしていても、その実態を一つ足りとも理解していないのはどうなんだ。
「豆芝くん。もし君がプロ選手として生きていきたいなら、そういうシビアな現実を理解しておく必要がある。俺みたいに極貧生活を送りたくないなら、特にね」
「そんなに、酷い生活だったんですか?」
「年俸二百万円の生活っていえば、予想がつくかな?」
年俸二百万円。アルバイトで稼ぐよりも、低い金額だ。
仮に都心部で家賃とかを支払おうとしたら、生活が難しいだろう。
「まぁ、そんな感じにさ。君が見ている現実ってのはあまりにも現実味がないよ。どれだけ努力したってお金が貰えないってのはざらだからね。だから言わせて欲しい。高給取りだけを目指すなら、サッカー以上に勉強を頑張れ」
「……そんなの」
「難しすぎるって、言いたいのかな? 俺はそう思わないけどな。だって、君は初音さんから買われるほどの実力を持っているじゃないか。それをなすにはきっと、相当努力をしてきたじゃないか。ならば、勉強も頑張るべきだ」
「…………それで、金を稼げるんですか? 確証はあるんですか?」
「何言ってるんだい。あるわけがないだろう。けれど――少しは確率が上がるんじゃないかな」
「そんなの、滅茶苦茶ですよ」
「滅茶苦茶じゃないよ。合理的だ。そんな考えを滅茶苦茶だって切り捨てるのは――人間としての価値を下げるだけさ。君は、どんな人物になりたいんだい?」
荒畑さんの言葉を聞いた瞬間、俺の脳裏に琴音の顔がよぎる。
俺みたいな人間の屑と一緒にいてくれた、琴音の隣に立つ。それを果たすには人間として二本足で立つには、頑張らなきゃいけないはずだ。
そんな基礎的なことを、荒畑さんは教えてくれたわけだ。
「……俺は、自分が二本足で立っていると自負できる人間になりたいです」
それを聞いた荒畑さんは、ふっと軽く笑った。
「そうかい。そりゃよかった。それじゃ、合宿中から頑張ろうな」
「……」
「渋い顔をするなよ。努力ってのは小石を積んでいくようなものなんだからさ」
「……わかりましたよ」
俺は少し面倒くさいという気持ちをぬぐえない部分を持ちつつも、この日から勉強も頑張ろうと思うように心境を変化させるのだった。
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